『DAZN・Jリーグ推進委員会』で今季からスタートした、エル・ゴラッソの月間表彰。マッチレポート紙面から、その月で一番グッとくるカットを表彰する「Jリーグ月間ベストカット byEL GOLAZO」では、横浜FMのマルコス・ジュニオールが飾ったマッチレポートの紙面を選出した。“ボス”ことアンジェ・ポステコグルー前監督がセルティック(スコットランド)の指揮官となるために退任すると同時期に、ルヴァンカップ、そして天皇杯で敗退。チームに暗雲が立ち込めていた中で“背番号10”が決勝点を決め、“聖地・三ツ沢”で素晴らしい勝利を挙げた。
「普段はあまりしゃべらない」というマルコスだが、宮崎キャンプ中の練習試合を終えて疲労の残る中でも誠実な姿勢で取材へ応じてくれた。
取材日:2021年7月25日(月) 聞き手:大林 洋平
――マルコス・ジュニオール選手の写真が飾ったエル・ゴラッソが6月の月間ベストカットに選ばれました。その紙面は見られましたか。
「はい。見ました。クラブ関係者から見せて頂いて、自宅に大事に取ってあります」
――表紙の写真を見て、率直にどのように感じられましたか。
「まさに僕自身を表していますね。F・マリノスに加入してから、努力してきたこと、頑張ってきたこと、チームのために犠牲したことが、あのゴールの喜びで爆発しているような感じで、お気に入りのカットです」
――アンジェ・ポステコグルー前監督が退任し、直後のルヴァンカッププレーオフステージでは札幌に敗れて、敗退してしまいました。だからこの第19節・鳥栖戦(2○0)は表紙の見出しにもなった『リバウンドメンタリティー』が求められる状況でした。どのような思いで臨んだのでしょうか。
「実はあの試合のアップ前に、タカ(扇原)と話をしました。彼には『この試合はすごく大事だ』と伝えました。そして『自分は、みんなの炎を大きくしなければならないと発信をするから、タカはタカでみんなの炎を大きくするように手伝ってほしい』とお願いしました。試合にかける思いが相当大きかったのは事実です。ルヴァンカップだけでなく、天皇杯も落としてしまい、ボス(ポステコグルー前監督)も去った中でチームとしては気持ちが落ちている状態でした。それを自分たちで変えないといけない、という気持ちが強く、僕だけではなくチームメートも感じていました。だからこそあの爆発的な喜びにつながったのです。ただ最も重要なことはあの状況下で、好調の鳥栖から勝点3を勝ち取ったことです」
――試合前のロッカールームでマルコス選手が「炎を大きくしよう」と仲間を鼓舞したエピソードは試合後にも明かしてくれました。扇原選手はどのように助けてくれたのでしょうか。
「チーム内で影響力のある一人であるタカを、僕は尊重しています。彼に助けてもらいたかった理由ですが、僕はブラジル人で日本語が話せないので、タカが日本語で熱い思いをぶつけたほうがより効果的だと思ったからです。鳥栖戦だけでなく、彼はいつも熱い言葉を投げ掛けてくれて、それを聞いて、いつも勇気をもらっています。自分の発信だけじゃなく、タカの声掛けは重要な要素でした」
――横浜FMの日本人選手たちは、マルコス選手やチアゴ・マルチンス選手が熱い言葉でモチベーションを上げてくれることに感謝しています。マルコス選手はチームの精神的支柱の役割も担っていますが、その役割をどう認識していますか。
「プライベートの僕を知る人は分かるはずですが、正直、普段は言葉数が多くありません(笑)。だけどユニフォームを纏った瞬間に僕は変わります。サッカー選手が職業ですし、サッカーは次の日の家庭に並ぶ飯の源でもあります。ボールがないと、次の日のご飯がないという気持ちで、いつも試合に臨んでいます。その熱い思いをチームメートに届けたい一心で熱い言葉を投げ掛けているのです。
僕の振る舞いはサッカーを教えてくれたブラジルの叔父さんに大きく影響を受けています。彼は熱い気持ちで試合に臨むことの大切さを教えてくれました。ガッツや気合を大事にしてプレーすることを学んできたので、仲間には熱い言葉を発信しています」
――では鳥栖戦のあの気合満点のゴールシーンを振り返ってください。
「僕は常に得点の確率が高いプレーを選択するように心がけています。ただ、あのゴールの前に足がつっていて、疲労がたまっていました。ベンチが動いているのも目に入っていたので、ボールを奪った瞬間に(前田)大然が左に走っているのは見えましたが、『これがラストプレーになってもいい』という気持ちで、思い切って打ちました。決まった時は本当にうれしかったですね。ただ、もし序盤であのシーンを迎えていれば、大然にパスを出していたとも思います」
――19年にJ1優勝の喜びを分かち合った元チームメートである鳥栖のGKパク・イルギュ選手から奪ったゴールでした。
「パギ(パク・イルギュ)に関して思い出に残っているのは、常にニコニコしている彼の姿です。いい笑顔でみんなに接していて、優しい人という印象が強くあります。ただ試合では、誰が相手のゴールマウスを守っているのかを忘れてプレーしています。パギは仲間ではありますが、勝ち負けのある世界なので、チャンスがあれば決める気持ちでいつもいます。仲間を相手にゴールを決めるのは寂しいものではありますが、あのときは喜びのほうが大きかったですね」
――鳥栖戦は試合の入りもよく多くの決定機を作りましたが、パク・イルギュ選手のビッグセーブもあってなかなかゴールが決まらないじれったい展開でした。だからこそマルコス選手の先制ゴールの意味は大きかったと感じています。
「おっしゃったように入りはすごくよくてチャンスを作っていましたが、なかなか決め切れませんでした。ただ、あの試合で、鳥栖について一つ驚いたことがあります。もっとインテンシティー高くくることを予想していたのですが、そこまで高くこなかった。もしかすると、自分たちのインテンシティーが上回ったから感じたのかもしれません。だから、ゴールこそ決められていませんでしたが、負ける気はしませんでした。僕のゴールが決まって、2点目も入りましたよね。思いどおりの試合運びでした」
――鳥栖戦を白星で飾ったことで再び勢いに乗り、リーグ戦6連勝で前半戦を終えました。
「優勝した19年と比べても、いまのほうがいい数字を残しています。チームはすごくいい道に進んでいますし、これを維持していきたいですね。ケヴィン・マスカット新監督が合流しても、変わることなく同じ道を進んでいきたいです。そして後半戦も勝ち続けることを継続していかないといけません」
――あらためて、ポステコグルー前監督のシーズン途中の退任という逆境をはねのけ、盛り返すことができた理由を聞かせてください。
「それは簡単な質問ですね(笑)。これまでどのようなサッカーをしてきて、どのようなサッカーをしていくべきかを残った選手たちが理解しているからです。状況の変化がありながらも変わらず同じF・マリノスのサッカーをしたことが、連勝につながったのです。ですから、自分は仲間を称えたいです」
――ここからはマルコス選手自身の質問に移ります。リーグ戦20試合を終え、3ゴール2アシストという結果でした。
「正直、とても低い数字だと感じています。僕は勝利に直結するプレーをしなければいけないと自負しているので、この数字はまったく満足していません。これで足りないことは自分が一番分かっています。だからこそもっと成長し、チームの勝利のためにプレーしていきたいです。チームがいい状態なので全体的には悪くありませんが、個人としては満足できません」
――その一方で数字には残っていませんが、アシストの一つ前のプレーで違いを見せるなど、多くの得点には絡んでいます。
「アシストの前での関わりは大事なことではあります。ただ好調な選手がいればファン、サポーターは彼らにフォーカスするはずです。目立っている選手が目立つべきだし、注目されるべきです。ただ自分は得点やアシストが少ないですが、常にF・マリノスのためにハードワークし、100%を出し切っています。チャンスがあればゴールを決めたいし、アシストもしたい。だけど、スライディングして勝利につなげられるのならそれでもよくて、極端に言えば、僕は勝利できればいいのです」
――マルコス選手はいい意味でも悪い意味でも気持ちがパフォーマンスに影響しやすいと感じます。メンタルコントロールでは何を意識していますか。
「感情がマイナスの方向に爆発するときもあれば、いいプレーが出てどんどん乗っていけるときもあります。僕のスタイルは変えるつもりはありませんが、メンタルをコントロールしなければならないことは分かっています。特にマイナスに働くこともあるので、そこはコントロールしなければならないですよね。試合に入れば、血が熱くなります。気持ちを前面に出すのは悪いことではないのですが、コントロールはしなければいけません」
――ただ、そんな熱いマルコス選手を好きな人は多いと思います。
「もっと頑張らないといけませんね。ただ、昔はもっとひどかったです(笑)」
――今度は副主将として、チームについてお伺いします。夏の移籍期間中に横浜FMも多くの出入りがありました。現在、宮崎キャンプの真っただ中ですが、何を意識していますか。
「最も意識しているのは連係面の構築です。新加入の選手たちには、一日でも早く自分たちのサッカーを理解してほしいです。新しい監督がくるので、元々いた選手にとっても誰が使われるか分からない緊張感があります。だいぶメンバーも固まってきているように感じますが、最終的にどうなるかは分かりません。キャンプでは新加入選手との連係、さらには全体の連係を深め、リーグ戦再開に向けて仕上げていきます」
――チームトップスコアラーのオナイウ阿道選手がトゥールーズ(フランス2部)に移籍しました。前田大然選手、新加入の杉本健勇選手らセンターFWの選手との連係では何を重視していますか。
「いまは連係を高め合う時期なので、日々の練習から互いを知ることが大切です。それによって連係は高まるし、よりよいものが生まれます。ただ、最後の仕上げの部分は、公式戦でしか生まれません。真剣勝負だからこそ、強固な連係が出来上がるのです。その意味では自分の前に入る選手と、早くG大阪戦を戦いたいですね」
――1カ月近くの中断期間が明けると、そのG大阪戦からすべて中2日での4連戦という超過密日程が始まり、いきなり後半戦の山場を迎えます。
「チーム全体で強いメンタリティーを保つことが大事です。8月最初の4連戦を同じメンバーで戦うことは難しいので、全員で戦うメンタルを準備しています。個人的にはメンタルコントロールがテーマです。(J1第21節・)柏戦で退場してしまったので、そこが大事になります」
――夏場の連戦でも横浜FMのフィジカル強度が高いスタイルを続ける自信はありますか。
「つらくキツい戦いになるのは間違いありません。今日(25日)の練習試合でも、自分は暑さに少しやられてしまって、思うようなプレーができませんでした。ただ、自信はあるし、自分一人で戦うわけでもありません。横浜FMはチームとしてインテンシティー高く戦うスタイルです。そして夏の暑さは自分たちだけでなく、相手にも影響します。よりコンディションが整っているほうが優位に立つでしょう。だからこそ、しっかりとした休息に加えて、水分補給や食事で栄養を摂ることが大事になります」
――最後に後半戦のチーム目標、そして個人の目標を教えて下さい。
「個人的には得点やアシストという数字を多く積み上げていきたいのですが、やはり一番の目標はチームが勝つことです。だから勝利につながるプレーをどんどん出し、F・マリノスのために尽くします。
チームとしては、リーグタイトルを獲ります。川崎Fが好調で独走していますが、それができると信じていますし、あきらめている人間は一人もいません。フロンターレにフォーカスするのではなくて、目の前の試合を勝つために一試合一試合、ライオンを倒す気持ちで戦っていきます」
マルコス・ジュニオール(Marcos Junio Lima Dos Santos)
1993年1月19日生まれ、28歳。167cm/66kg。ブラジル出身。フルミネンセ→ビトーリア→フルミネンセ(以上、ブラジル)を経て19年、横浜FMに加入したFW。J1通算77試合出場29得点。
(BLOGOLA編集部)
2021/08/02 17:02