『DAZN・Jリーグ推進委員会』で今季からスタートしているエル・ゴラッソの月間表彰。マッチレポート紙面から、その月で一番グッとくるカットを表彰する「Jリーグ月間ベストカットbyELGOLAZO」では、J1第27節札幌vs川崎Fのマッチレポートで描かれた、小林悠選手のゴール場面を選出した。
リーグ戦2分1敗と3戦勝ちなし、今季初めて敗れた福岡戦後に中2日で迎えたアウェイ・札幌戦で1ゴール1アシストと結果を残して2-0での勝利に貢献した小林に、その試合のことや現在のチーム状況などを聞いた。
取材日:9月8日(水) 聞き手:田中 直希
――8月の月間ベストカット受賞、おめでとうございます。紙面に「ヒーロー」という文言があったからか、読者の方からは「SHISHAMOの『明日も』が頭の中に浮かんだ」、「川崎Fサポーターにとってはヒーローかもしれないけれど、こちらにとっては悪魔のような存在」というような反応もありました。
「たしかに、札幌戦ではずっとゴールを決めることができているので(リーグ戦9試合連続得点)、札幌サポーターからはイヤがられていると思っています(苦笑)」
――あの札幌戦に向かう際の心情を振り返ると?
「(三笘)薫と(田中)碧の移籍があり、ケガ人も出ていた中で、リーグ戦で勝てなくなっていました。しかも前節の福岡戦で久しぶりに負けてしまった(今季初、公式戦43試合ぶりの敗戦)。昨季から加入した選手や、今季加入した選手は“負け”というものを知りません。雰囲気的に結構暗くなったところはありました。そこで、もっとつらい時期や、初めて優勝したときの思いを知っている自分やノボリ(登里)がやらないといけないと感じたんです。『自分が決めて勝たせないといけない』と考えていました。連戦という側面はありましたが、そういったこともあってオニさん(鬼木監督)は僕をスタメンで使ってくれたと思っています。ここで力を発揮してくれよ、というオニさんの期待に応えたかった。結果的に1ゴール1アシストで試合にも勝てたので、本当によかったという試合でした」
――鬼木監督は「こういういときに結果を残すのが小林悠」と話していて、小林選手の表情やプレーからも強い思いは伝わってきました。一方で、若手にはどんな声掛けをしていたのですか。
「フロンターレのいいときは、前からどんどん追っていく回数が多かった。それが少なくなっていると感じていました。でも、自分だけが頑張ってもチームとしてダメ。その仲間を増やしたいと思って(遠野)大弥、(脇坂)泰斗、(橘田)健人に、『前からいこう』という話をしました。でも正直、かなりキツい試合でした。決して前半からうまくいった流れではなかったのですが、そうしたアグレッシブさが結果につながったのかなと思います」
――札幌が押していた中で、小林選手の1点目が決まります。
「オニさんも、『試合を動かすのはゴール』と言っていました。相手がチャンスを決め切れていなかったので、『ここで決められれば流れをもってこられる』と思ってプレーしていて、チャンスをものにするための準備は試合中もしていました」
――その1点目、宮城天選手のパスを受けてから素晴らしい反転をして決めたゴールでした。
「イメージできないと、ゴールはできないと思っています。試合前にはいろいろなことを考えます。どういう形ならばゴールが決められるか、そしてどういう形で決めるか。あの試合のウォーミングアップのときにターンのイメージが自分の中でできていたからこそ、あの場面で自然と体が動いたのだと思います。準備が生きたゴールでした。そのイメージができていなかったら、体の向きの作り方、ターンもできていなかったと思います。だから、試合に対する準備がすべてだったのかなと」
――そして、気持ちの入ったガッツポーズを叫びながら披露しました。
「とにかく、絶対勝って帰るぞという思いが強くて。そのために、自分のゴールで勝とうと思っていました。決めた瞬間はオニさんやベンチのみんなに『勝つぞ!』と言ったのを覚えています。自分が決めたらチームが乗る、勢いづくというのはわかっていますし、FWの選手はそういう特別な役割をもっていると自認しています。実際に、1点目を決めたあと、すぐに2点目を取れました。気迫やメンタルの部分は自分のよさ。その重要性をあらためて確認した試合になりました」
――出場時間で換算すれば1試合1得点以上のペースです。二ケタ得点を取っている選手の中で、一番の得点力。それにつながっているのも、メンタル面だと。
「もっと試合に出たいという気持ちが一番にありますが、チームの状況もあってなかなか継続的に試合に出られていません。でも、(同じセンターFWのレアンドロ・)ダミアンは素晴らしい選手。だから、限られた時間でどう点を取るかを研ぎ澄ませている部分はあります。出場時間が短かったら、そのぶんチャンスは少ない。試合途中から入ると難しさもあります。いろいろな側面はありますが、心の準備、体の準備は、どんな試合前も手を抜くことはありません。その準備がすべてだと思っているので、それが時間に対するゴール数につながっていると思っています」
――昨季の素晴らしい抜け出しからの得点など、札幌戦ではいいイメージがあるのではないですか。
「札幌戦と仙台戦は、周りのみんなが試合前の練習などで『次は○○キラーがいるから大丈夫だ』と冗談っぽく言ってくれますし、メディアの皆さんも持ち上げてくれる。自然と自分でも『この試合は点が取れるかもしれない』となっています。周りの人に感謝したいですね(笑)」
――主力で移籍した選手がいたり、負傷者が続出する中で鬼木監督は「我慢の時期」という表現をされています。その意味をどう解釈していますか。
「人が代われば戦い方も絶対に変わります。ネガティブな意味ではなくて、今までやってきた戦い方ではいけないと感じています。オニさんも選手みんなもそれを考えている時間であって、だから『我慢の時期』という説明なんだと思います。これを続けていけば、強いフロンターレが見せられるはずです。ただマリノスなど下から迫っているチームがある中で、結果には絶対にこだわらなければいけません。内容は少しずつ変えていけるかもしれないけれど、その中で少しでも負ければ差は縮まってしまう。だから、この時期は結果がすべてだと思っています。札幌戦にしても、先に失点していたらどうなっていたかわかりません。内容としてはあまりよくなかった。でも、“ 勝って修正ができる”というのが非常に大きいこと。だからこそ、どんな形でも結果にこだわった試合をすることが大事だと思っています」
――[4-3-3]を続けてきましたが、勝つために柔軟にシステムを変えることもあります。
「そこは、試合中にオニさんがうまくマネジメントしてくれています。もちろん、選手たちだけでできればそれに越したことはないですけど、試合中にピッチの中だけで形を変えるのは難しい。いま、最適なものを探している段階だと思いますが、相手によっても形は変えないといけないし、試合中にうまくいっていないときにポジションチェンジをすることで試合展開がガラッと変わることもある。まあ、自分としては2トップなら試合に出られる可能性が増えると思いますけどね(笑)」
――ルヴァンカップ準々決勝第2戦・浦和戦では、試合中にレアンドロ・ダミアン選手と2トップになり、二人の連係からゴールも生まれました。
「アキさん(家長)とダミアンと絡んで、久しぶりにああいう絡みで点が生まれた感覚があったので、その場面を増やしていければまた得点数が増えてくるのかなという感じはありますね」
――田邉選手から宮城選手とつながり、そこから家長選手、小林選手、ダミアン選手の連係で点が決まりましたよね。将来のフロンターレと今までのフロンターレがうまく絡んだゴールでした。
「(宮城)天が持ったときに、僕の中ではアキさんにボールが渡って、そこからのパスを受けるイメージができていました。映像で見返して気づいたんですが、僕も天に『アキさんに(パスを)当てろ』と指をさしています。アキくんは体勢があまりよくなかったのに天からのパスをダイレクトで動き出した自分に出してくれました。それを受けるときに『ダミアンいてくれ!』と思って中を見たら、本当にそこにいてくれた。全員が少しのミスもない、完璧なゴールだったと思います。決めた瞬間の気持ちよさは、いつもとまったく違うものがありましたね」
――ただ、その浦和戦は終盤に2失点して3-3。アウェイゴールの数で下回り、ショッキングな敗退になってしまいました。
「何より、後悔がありました。自分がなんとかできなかったのかと。自分が出ていたときのプレーを振り返りましたし、交代したあとに3失点目を決められてしまった。ベンチからも声を出していましたが、ピッチに最後までいたかったという悔しさはすごくありました。あの夜、家に帰ってからも全然眠りにつけなくて。本当に大きな悔しさがありました。(3-1としたあとに終盤に2失点するとは)サッカーはわからないですね。ああいうゴールを決めることは多かったですが、されると悔しいんだなとあらためて…。その日は切り替えられなかったです」
――今までは“ずっと負けていないフロンターレ”でした。ここは、雨降って地固まるポイントのような気もします。
「おっしゃるとおりですね。“勝って修正する”というのは一番いいやり方ですが、あくまでも美談だと思うんです。負けないと、その悔しさはわからない。悔しさを感じた経験は絶対に次につながると思います。ずっと勝っていたら、それに気づけない選手も多いでしょう。いい経験とは言えないですが、決して無駄にしてはいけないと感じます。もっと声を出しておけばよかったと思っている若手選手もいると思いますし、自分はもっとやれなかったかな、と思っているベテランもいるはずで、そうやってみんながチームのために何かをやろうという敗戦になればいいですね」
――ここからは小林選手自身のことを。今季は先発機会も少なくなり、負傷もありました。ここまでをどう振り返りますか。
「客観的に見れば、チームは強くなったと感じます。でも、移籍や負傷という試練が次々とやってくる。それを乗り越えるために必死にもがいて戦っている姿が、またチームを成長させると思いながら日々を過ごしています。個人としての思いは、悔しさが一番ありますね。若い選手たちに負けたくないですし、その思いは自分が若手のころから変わっていません。それがなくなったら引退しようかなと思っているくらいで。とにかく、もっとゴールを決めたい、もっと出たいという思いを練習からぶつけることが大事ですし、それをしっかり見てくれているのがオニさんだと思うので、続けるだけですね。あとは、若い選手にアドバイスする立場になってきたので、特にメンタルの部分は伝えていければと思っています」
――「伝える」という点では、第25節・広島戦後に旗手怜央選手が小林悠選手と話せたことが大きかったという話をしていました。
「内容はちょっと言えないですけど、強いチームの振る舞いについてですね。簡単に言えば、一喜一憂するなと。優勝するチームというのは、勝っても負けても気持ちの変動があってはいけない。それについては、ほかの若い選手にも言っていこうと思っています。怜央はいろいろなものを背負って頑張っていました。移籍した(田中)碧や(三笘)薫のこともあると思います。サッカーはチームでやっているスポーツなので、自分で背負い込みすぎないほうがいい、とにかく淡々としていたほうがいいよ、と伝えました。僕ももともと感情が外に出やすいタイプで、彼の気持ちはすごくわかります。細かくは言えないですが、まず試合後の夜にLINEしました。個人的に、会ってそういう話はできないかなと思って」
――それで旗手選手は吹っ切れたところもあったのですね。では、小林選手自身のメンタルの持ちようについて、どんなことを意識されていますか。
「真ん中でなく右サイドで出ることもあるし、試合展開によってはいろいろな役割をしなければならないときがあります。ただ、絶対に変えてはいけないのはゴールを目指すということ。ディフェンスも頑張らないといけないし、チームとして前線の選手がスイッチを入れる、コースを限定するのはすごく大事なこと。そこから自分もリズムをつかむ部分はあります。でも、それをやりすぎてゴールを奪えなくなりそうなら意味がないので、うまく休みながらやろうと思っています。もちろん、全部やれることが一番いいですが、まずゴールを決めるという考えは変えないようにしています。人にどれだけ言われても、そこだけは変えないようにしています」
――それが小林悠というサッカー選手なんですね。
「僕の価値はそこにありますね。自分がサッカー選手である意味は、ゴールだと思っています。そこは変えないように心がけています」
――今季、さまざまなことがチーム内で起こっています。移籍、負傷、過密日程、コロナ…。でも、川崎Fは川崎Fでいられていると思います。なぜだと思いますか。
「“フロンターレにいる人”じゃないですかね。スタッフや選手なども含めて、本当に意識の高い集団です。ほかのチームにいったことがないので聞いた話でしかないですが、ウチは選手一人ひとりの志が本当に高い。そこに引っ張られるように、どんどん皆の意識も高まっていきますし、私生活を含めて人間としても成長できるチームです。自分もその中の一人でいられたらいいなというのが正直な思いですね。オニさんも、ベテラン選手も若手も、うまくなりたい、強くなりたいという思いが伝わってきます。それがすべてだと思います」
――では、鬼木監督の存在については。
「僕にとってはめちゃくちゃ大きい存在です。チームのことも個人のことも考えてくれて、しっかりと会話してくれます。だから、どういうことを要求しているのかが理解できるんです。若手にどんな声掛けをしてほしいと言われることもあります。オニさんからは信頼を感じています。それは自分だけではないと思います。試合に出ていない選手たちも、オニさんは見てくれている。それが分かるから腐っていく選手がいなかったり、常に意識が高い中でやれていると思います。オニさんは、試合に負けたときや引き分けたときに、まず自分を責めるんです。まず自分に矢印を向けてから、『もっと自分がこうすればよかった』と僕らに伝えます。それを聞いた選手で監督のせいだと思う選手はいないですし、まず自分に矢印を向けることになる。自分は何かできなかったかを考えさせられるきっかけになります。それがほかのチームと一番違うところだと思います」
――「一番の違い」ですか。
「人のせいやもののせいにしていたら成長はないと思うんです。毎試合、自分とどう向き合うか。そのあとに、周りの選手との連係や、ミスに対して会話することも大事です。でも、まず自分のプレーがどうだったのかを整理しないと次の話にはいけないと思うので」
――タイトルに向けた戦いがより鮮明になる終盤戦に向けての意識を教えていただけますか。
「まず、ないものねだりをしないこと。いまいるメンバーでどう戦うかが大事ですし、そのメンバーを信じてやることが一番です。自分もよくケガをするのでわかります。ケガをした本人が一番つらいし、苦しい。また、彼らがチームのために何ができるかを考えてやってくれているのも知っています。復帰する選手も含めて、いるメンバーでどう戦うか。途中から出るメンバーも含めて、選手個々の特長を出して、弱気なプレーではなくてアグレッシブにプレーしていくことがタイトルを獲るためには必要だと思います」
――それがフロンターレらしさなんでしょうか。
「そうですね。いいときは、みんなでゴールに向かって攻めて、失敗したらみんなで戻ってカバーしていました。そのアグレッシブさが少なくなってきているし、それをみんなでカバーするところも、失敗してもいいからいこうというのが少なくなっていると感じます。ミスを恐れて安パイなプレーをしてしまっているというか。もう一回、練習からそのことについて言っていこうと思っています。結局、一番相手もイヤだと思うので」
――そうなれば鬼に金棒ですね。厳しい戦いが続くと思いますが、頑張ってください。
「頑張ります。ありがとうございます!
小林 悠(こばやし・ゆう)
1987年9月23日生まれ、34歳。東京都出身。177cm/72kg。町田JFC.JY→麻布大附属渕野辺高→拓殖大を経て、10年に川崎Fに加入。J1通算311試合出場130得点。J2通算5試合出場。
(BLOGOLA編集部)
2021/10/01 12:42