『DAZN・Jリーグ推進委員会』で今季からスタートした、エル・ゴラッソの月間表彰。マッチレポート紙面から、その月で一番グッとくるカットを表彰する「Jリーグ月間ベストカット byEL GOLAZO」では、J1第13節浦和vs仙台の『FEATURED PLAYER』、阿部勇樹のFKの場面を選出した。
75分に追加点となる直接FKを決めてヒーローの一人となり、チームに勢いを与えたシーンとともに、チームの今季について振り返ってもらった。
取材日:2021年6月11日 聞き手:沖永 雄一郎
――本日は5月の『月間ベストカットbyEL GOLAZO』に選定されたJ1第13節・仙台戦の直接FKゴールの場面からお話を聞かせていただければと思います。まずこの試合は、負傷離脱後の初めてのリーグ戦スタメンでした。
「ちょうど復帰したころでしたね。その前にルヴァンカップの湘南戦と柏戦に先発で出て、それから、という試合。仙台がけっこう立ち上がりから前に出て来ていたのもあって、ちょっとミスが続いて危ないシーンはありましたけど、徐々に自分たちのペースに持っていけたんじゃないかなとは思います」
――そして後半、キャスパー・ユンカー選手のリーグ戦初ゴールでレッズが盛り返したあとの75分、追加点が欲しい場面でFKを獲得しました。ボールが転がって戻ってきたときに、阿部選手はすぐに拾ってご自分でスタンバイしていました。
「この試合は、たしかCKなども蹴っていて、蹴るつもりでいこうという思いでいたことと、早くセットして壁がどう作られているかを見たいと思っていました」
――確認にも時間をかけている中で、一度助走を取られたあとに、少し横に歩いて何かを確認していたように見えましたが。
「ちょうどチームメートがGKと相手の壁の間に立って、ボールを見えないようにしてくれていました。横に小泉選手もいたので、少しの立ち位置の変更などの指示を出していました」
――実戦で直接ゴールを狙える位置で蹴るのは久しぶりだったかと思いますが?
「今季のリーグ戦では、ほかに札幌戦かな。この場面とは逆(のコート)に攻めているときに同じような位置の機会があって。そのときは入らなくてGKに弾かれてしまった。似たようなシーンだったので、今回は入れたいなと思っていました」
――どういうボールを蹴ることを意識していたのでしょうか?
「GKからすぐにボールが見えてしまったら反応されてしまうので、相手もジャンプすることを想定して、そのジャンプの高さを越えたぐらいで(ボールが)見えたら相手も止めづらいんじゃないかなという思いがありました。壁を越えようとして高いボールを蹴ると、GKにも早い段階でボールが見えて反応しやすい。ギリギリ壁を越えるくらい、壁の選手の顔の間ぐらいに蹴れたらなと思っていました。あのキックに関しては、狙ったところと、軌道やスピードもイメージ通りに蹴れたかなと思います」
――かなり余裕を持って、ホームランを打ったあとの打者みたいな感じの見送り方でしたから、確信があったように見えました。
「そうですね(笑)。外気味から回って、これは入るなと思いました。自分でも軌道が見えましたからね。ちょうど、仙台の選手がジャンプした間ぐらいにボールが通ったと思います」
――ボールスピードについて、意識したことは?
「あの場面でスピードのあるボールを蹴っていたら壁に当たったかもしれないし、枠の外に行ったかもしれない。そうならないように考え、その通りに蹴れたので、ベストの選択ができたかなと思います。もしニアサイドじゃなくてファーサイドに蹴るのであればもっとスピードあるボールだったり、もっとGKとの駆け引きや、ちょっとボールを動かしてファーサイドに蹴るとか、いろんな手もあったと思います。ただ、あの時はニアに蹴ろうと決めていたので」
――選手によって得意な蹴り方やコース、球質があると思いますが、阿部選手にとって理想のFKは?
「理想をいえば同じ助走で同じフォームで、いろんな種類のボールを蹴れるのが一番ベストだとは思います。ただ、自分のキックを実際に見ていないから、それができているかはわからないですよね…。そういうことをやれるようになったら最高だと思いますし、例えば右足だけじゃなくて、左足も同じようにできたら最高だなと思うので、まだまだやっていかなければいけないことは多いんじゃないかなと思っています」
――今季一度負傷離脱されてしまったところでいうと、昨年はかなりリハビリが長かった中で、今季はいいスタートで開幕からも試合に出て、そこで離脱してしまった。ネガティブな感じになることはなかったのでしょうか?
「去年は本当に長い間リハビリで離れていたので、そのときに比べたら(マシだ)というのはありました。今年は良い入りをさせていただいた中で、約1カ月の離脱をしてしまいましたけど、またしっかり治してピッチの上で戦いたいという思いがありました。昨季は何度かケガを繰り返してしまったところもあったので、完全に治ってからやろうと、チームのトレーナーやドクターにサポートをしていただきました。そうして復帰ができたので、落ち込むとかネガティブっていうのは特にはなかったですね」
――昨季も、けっこう早い段階でケガをされてしまいましたよね?
「4月か5月だったかな。中断中に負傷して、結局復帰したのはもう11月ぐらいだったので、それぐらい大きなことだったんだなと思っていました」
――昨季はほとんど阿部選手のプレーが見られませんでしたが、今年はキャンプからずっと見ることができて、あらためてこの年齢でこれだけのサッカーできるのは素晴らしいなと思います。ここまで続けてこられたこと、それに昨年の怪我から立ち直れた要因などがあれば教えてください。
「まず、また新たな人との出会いがありました。今季からリカルド監督が来て、目指すサッカーについて自分がやってきたことがまだまだ生かされるんじゃないかなという思いがありました。今年の9月に40歳になりますけど、若い選手のような、試合のたびにアピールしていく思いは、僕の年齢になっても変わらないんだなと。そういう気持ちになっている自分がいて、ワクワクじゃないけど楽しくやらせていただいています。あとはやはり、ドクターやトレーナーの方たちに体をチェックしていただいてることも大きいですね。自分でも異変には気づきますけど、触っていただいた方の感触など、自分ではわからないところを判断していただけるので、そのあたりも長くやれている要因かなと思います」
――ファン・サポーターの支えというのも大きかったですか?
「そうですね。浦和レッズに関わる人って本当に多いじゃないですか。会社の方もそうだし、応援してくださる方もそうだし、やっぱりそういった方たちと一緒に喜びたい、そういった方たちの笑顔を見たいという気持ちがモチベーションなので、そのために頑張りたい思いです。正直な話、たぶんもう長くはサッカーをやらないでしょうし、若いときに考えたほど、あと何年、何十年やるなんてなんて思わない。いまは1年を出し切って終わらなければいけないし、一日一日も大切にしなければいけないなと思っています。この2021年はやり残すことなく、燃え尽きるとはいかないまでも、出し切って終わるシーズンにしたいなと思っています」
――今年はキャプテンにも指名されて開幕スタメン、ゴールも決めて好調なスタートでした。逆に最初の数試合はチームとして苦労していて、川崎F戦に大敗したあとで阿部選手も負傷。チームの調子が上がる直前のタイミングでの離脱となりました。自分がいないときに勝ち始めた悔しさはありましたか?
「いや、そういうことはないですね。やってきたことが少しずつゲームでも出せていて、一つ勝って結果が出れば雰囲気も良くなるとは思っていましたし、どんな内容であれ勝つことが重要だったので。鹿島戦、清水戦、徳島戦と、一つ勝ったことによってその後が続いたと思いますし、それらは自分たちがやってきたことが出せた試合でもあったと思いますから。もちろん、良かった試合の次にダメな試合があったり、前半は良かったけど後半はダメになった試合など、そういうものの繰り返しはあったとは思います。でもそういった試合の経験が、常に自分たちのプレーができる、悪い時間帯をどうするか、自分たちでいい時間帯をどう増やしていくかということをやる上で大事な時間だったと思います」
――チームが上向きなだけに、逆に治療に専念できた感じでしょうか?
「そうですね。僕も早く治したい、先を見据えてやっていけたらなと思っていました。やっぱりチームが勝つために、浦和に関わる人が喜んでくれて笑顔になってくれるように、サッカー選手だからピッチに立って、それに貢献したい思いが皆にありますからね。選手としては、ケガをして練習を一緒にできないことが一番つらい。でもまずはチームが勝たなければ意味がないですから。チームが勝っているのはうれしかったですし、離脱しているけど何とかしっかり自分を戻して、いい状態で戻らなければ意味がないなと思っていました。そういった焦りというか、早く治していい状態でチームのために頑張りたい思いはありましたけど、ネガティブな焦りというのは特になかったですね」
――キャンプの段階では、阿部選手が絡まないとなかなかうまくボールが回らないなという印象もありましたけど、いまのチームは阿部選手がいない試合でもしっかりとボールを回せています。そういったチームの成長は感じますか。
「そうですね。どの選手が出ても、どの組み合わせでもやれていると思います。今後は、アタッキングサードに入ったときにどれだけ相手がイヤがることができるのかだと思います。ボールを回している位置をもう一つ前の場所でやっていくことが大事かなと思っています。今できていることと併せて、そういったプレーにチャレンジしていくことをやっていければいいかなと。レッズがやらなければいけないサッカー、リカルド監督が目指すサッカーというのはまだまだできていないと思っているので、毎日の練習から意識して、1試合ずつよくなっていくようにやっていきたいなと思います」
――では阿部選手から見て、リカルド監督になってから変化や成長を感じる選手はいますか?
「今年はけっこう新しく選手が入ってきました。その中だったら明本選手、小泉選手ですかね。彼らはチームのエンジンというか、スイッチのようなものをパッと入れてくれる選手だと思います。今年初めて一緒にやらせていただきましたけど、それはここ数年のレッズにちょっとなかった部分かなと思うので、そういった選手が来てくれてやれているというのはすごくいいことかなと思います。今までいた選手だと柴戸と、あとはやっぱ(鈴木)彩艶かな。柴戸は去年多くの試合に出た中で、それにプラスして今年はリカルド監督が目指すサッカーの中でまた新たなチャレンジして、徐々に理解も進んでいて感触としても前よりかなりいいんじゃないかなとプレーを見ていて思います」
――鈴木彩艶選手は18歳とは思えないプレーを見せていますね。
「彩艶はね、積み重ねてきたことをどこで爆発させるのかというところで、出番が来た。どんな試合でも最初はやっぱり緊張すると思うんですけど、それでも逆に、後ろからしっかり声を出して周りに落ち着きを与えてくれた。これからが楽しみですね。皆さんもたぶん同じように感じているんじゃないかと思いますけど、今挙げた選手たちは今後、自分たちが引っ張っていくという思いを持って戦っていかなければいけないと思います。チームもどんどん進んでいきますし、レッズも変わっていかなければいけないと思いますから。今挙げた以外にもさらに選手は出てくると思っていて、そういった可能性のある選手は何人かいますから、彼らがチーム全体のレベルを上げてもらって、それに僕らみたいな上の年齢の選手も負けないようにやっていければいい。いい刺激をもらいながら、僕らもいい刺激を与えられるように。チームとして大きくなっていければいいかなと思います」
――阿部選手自身、これまでいろんな監督と接してこられたと思いますけど、ここに来て、まだ新たな発見を感じるものですか?
「それはありますよ。また新たにサッカーの面白さというか、楽しさというか、そういうのを教えていただいているので。それがモチベーションにもなって、戦えています。今年をやり切りたい、出し切りたいという思いです」
――先日、加入が発表された酒井宏樹選手も、また新たな刺激をもたらしてくれそうですね。
「長い年数、ドイツやフランスでプレーしてきていますし、海外での経験値は行った人にしかわからないと思いますから。それをプレーや、発言で見せてくれると思います。先日行われたU-24日本代表のガーナ戦でも、彼のプレーを見るだけでこれまでの経験について納得できる部分はありました。まだまだ出し切ってないと思いますけど、あれが向こうでは普通のプレーでしょう。それを見せれば、見るほうにも影響もあるでしょうし、チームに合流したら一緒にプレーする周りの選手たちへの影響も大きいと思います。また、自身の経験から話せる内容もある。移籍当初は、やりづらさもあるかもしれないですけど、まあ日本人なので。日本語も普通にしゃべれるし、あ、話す言葉がフランス語だったら面白いなと思ってますけど(笑)。でも間違いなく、チームにとってプラスになるかなと思いますし、そういうのをどんどん出して引っ張っていくプレーを見せてくれると思います」
――最後に、先ほど阿部選手からもレッズが変わっている、変わらなきゃという話がありました。外から見ても、例えば補強の仕方やサッカーのスタイルにしても、本当にレッズがすごく変わっているなという感じを受けます。阿部選手から見て浦和のどういう変化を感じるか、またどう進んでいってもらいたいかという思いを教えてください。
「これから、選手も新たに入ってくる(アレクサンダー・ショルツの加入が発表された)ので、またそこから一つになって進んでいかなければいけないなと思います。いいことも悪いこともあるでしょうけど、何よりもチームがバラバラにならずに一つになってやっていくことが大事かなと思います。試合に出られる選手、出られない選手がいて、難しいところも出ますが、チーム全体でうまく話したりしていきたい。勝ち抜いて上に行くためには本当に一つになっていかないと厳しいなと思いますし、監督も一つになってやっていくことの重要さを仰ってました」
――少し広く、クラブ全体という見方ではいかがでしょうか。
「やはりまずクラブ、チーム、選手が一つになっていくこと。それに、この浦和を支えてくださる方たちにも、同じように一つにまとまっていっていただきたい。全部が一つになったときに、浦和レッズのパワーがどれぐらい発揮されるのかが楽しみなんです。ただ、実際はいろんなことを含めて、まだまだ一つになり切れていないと思うんですよね。ちょっとずつでも周りを巻き込んで、一つになっていくようにしなければいけないなと思います。それぞれで道順は違うかもしれないですが、浦和に関わる人たち目指すところはみんな一緒だと思うので、目標に向かってみんなで助け合ってやっていければいい。『自分たちはレッズだから』というプライドを持つのはもちろん大事ですけど、チームが良くなっていくことをやっていけたらと思っています。新しいものを取り入れて、続けるところは続けて、変えなければいけないところは変える。それで先につながる浦和レッズになっていけば最高だなと思います。僕は年齢からすると最後のゴールはわからない。ゴールを見られないかもしれないですけど、その過程に関わって少しでもチームの力になれたらなとは思うので、そういったのもモチベーションとして、今年まずやっていきたいなと思います」
阿部 勇樹(あべ・ゆうき)
1981年9月6日生まれ、39歳。千葉県出身。178cm/77kg。市原JY→市原Y→千葉→浦和→レスター(イングランド)を経て、12年に浦和へ復帰。J1通算588試合出場75得点。元日本代表。国際Aマッチ53試合出場3得点。
(BLOGOLA編集部)
2021/06/20 08:53