「広島が優勝した場合は、広島の手伝いをお願いします」。
先週の頭、編集部から1本の電話がかかってきました。
「了解しました。でも、セレッソも残留が懸かっているし、仙台の結果次第という面もありますからね。次の試合での優勝決定の可能性は低いんじゃないですか」と返事。
試合当日、広島駅で偶然居合わせた、在阪のC大阪担当記者との会話でも、「今日で優勝は決まりませんよね?」と話しながらスタジアムに向かいました。
スタジアムに到着すると、試合開始2時間30分前だというのに、人の波、波、波。スタンドも続々と紫のサポーターで埋まっていきます。この時点で、これはひょっとすると…、という気持ちも生まれます。3万人を超す満員のビッグアーチには、隣で試合を見ていた広島担当の寺田記者もうれしそう。
ですが、C大阪担当としては、C大阪がこの試合に向けて入念に準備してきた様子も見て来ましたので、そう簡単に引き立て役にはならないだろう、との思いでキックオフを迎えました。ところが…目の前で繰り広げられた光景は、広島にとっては至極の90分であり、C大阪にとっては目を覆いたくなる90分間でした。
そして、仙台の敗戦もあり、今節での広島の優勝が決まりました。感情が爆発したビッグアーチ。森保一監督の歓喜の絶叫は、胸に迫ってくるモノがありました。記者席でも広島担当記者たちの抱擁が交わされ続けていました。
祝・広島優勝。ということで、今号のEG本紙は“広島の悲願達成”で構成されており、C大阪側の記事はありません。そこで、このブロゴラにて、C大阪視点の記事を1つだけ記しておきたいと思います。
この試合に向けて、C大阪は異例の3日連続の紅白戦で備えてきました。その中で試されたのが、山口螢選手の2列目起用であり、横山知伸選手のボランチ起用でした。運動量とボール奪取力に優れる山口選手を2列目に置くことで前からのプレスを強める狙いがあり、横山選手をアンカー気味に構えさせることで、CBと連係して広島の1トップ2シャドーをつぶす狙いがありました。開始10分は、C大阪がペースを握る時間帯もありました。しかし、吹っ切れた広島の躍動感はC大阪の対策を上回るモノがありました。17分に先制された後は、完全に広島にペースを持って行かれました。
1つ、試合開始前に個人的に腑に落ちなかった点があるとすれば、レヴィー・クルピ監督が2トップの一角に柿谷曜一朗選手を起用したことでしょうか。もちろん、今のC大阪において、彼は欠かすことのできない選手ですが、仙台戦で負ったけがの影響もあり、先週は別メニューも多く、コンディションは万全には見えませんでした。その間、トップ下でプレーしていたのは南野拓実選手とヘベルチ選手です。特に、南野選手は運動量豊富に山口選手らと共に果敢にチェックに行くなど、与えられた役割を忠実にこなしていました。“前からのプレス”を試合の1つの鍵としていたことを考えれば、運動量に不安の残る柿谷選手の先発起用は理にかなっていません。この辺の矛盾が、11人全体の組織がほころんだ1つの要因かもしれません。(もちろん、それだけではありませんが)
「前からのプレスがはまらなかった。それならそれで、浦和戦の時のように、割り切って引いて対応する方法もあった」と試合後に藤本康太選手も話していましたが、C大阪に戦術変更の時間を与えてくれる間もなく、広島は一気呵成(かせい)に攻めて来ました。
「広島の攻撃はうまかった」(横山選手)。厚くしたはずのバイタルエリアも、いとも簡単に攻略されてしまいました。
さらに、2失点した後に酒本憲幸選手が負傷交代。山口選手を右サイドバックに回した時点で、試合前のプランは完全に崩壊。さらに、その山口選手が1発退場し、前半で試合の行方は決定付けられました。ただし、10人で迎えた後半、途中出場の3人の奮闘や広島のペースダウンもあり、最終スコアを1-4で終えたのは、せめてもの救いでしょうか。
試合後のミックスゾーンは、広島の喜びに満ちあふれていました。記者も、C大阪の選手コメントを取り終えた後は、編集部の指令通り、広島側の手伝いに回ります。寺田記者と手分けして、広島の選手コメント取りに奔走しました。
優勝の瞬間に立ち会ったのは、2009年にEGの記者になってから初めてでしたが、やはり、選手ひとりひとりの言葉には説得力がありました。佐藤寿人選手は過去に所属したC大阪での1年についても触れ、「あの1年は自分にとっても大きく、成長させてもらった」といった趣旨の話もされていました。
一通りコメントを取り終えると、優勝の余韻が残るビッグアーチを後にし、寺田記者にJR広島まで車で送ってもらいました。車中ではいろいろな話をしましたが、次節について話が及んだ時、「次の試合も残留が懸かった神戸との試合ですね。C大阪としては負けないでほしいです。優勝が決まった後の試合ですけど、手は抜かないでくださいよ」と記者が尋ねると、「今日ホームで優勝できたのも、新潟が仙台に勝ったから。森保さんは新潟でコーチもしていました。監督の性格的にも、新潟の(残留)ためにも、優勝が決まったからといって手を抜くことはありえないですよ」と寺田記者。
今節の結果、残留争いは、C大阪、神戸、G大阪、新潟の4クラブに絞られました。最終節、どんなドラマが待ち受けているのでしょうか。
最後に、広島関係者の皆さん、寺田記者、「優勝、本当におめでとうございました!」
(C大阪担当 小田尚史)
2012/11/28 07:55