平成25年6月23日(日)
関東クラブユース(U-18)選手権9位決定戦/那須スポーツパーク
「鹿島アントラーズユース 1-0 川崎フロンターレU-18」
コンフェデ杯も幕を閉じたが、この代表月間で流行語大賞を決めるなら、「インテンシティ」になるのではないだろうか。民放のアナウンサーまでが使っていたのを耳にしたときは素直に驚いたものである。
イタリア語で言う「インテンシタ」というこの言葉、普通に日本語訳すると「強度」とかになるのだが、このインテンシティが「ある」とか「ない」とか、あるいは「高い」とか「低い」とかは、なかなか感覚的に分かりづらい。流行らせた張本人の一人(たぶん)であるジャーナリストの小澤一郎氏は「インテンシティが高い」状態を、「ボールにガツガツ行く状態」と定義していた。一方、フットボールチャンネルの植田路生氏は、「イタリア在住の記者は、ザックが発した『インテンシティ』という言葉を『“気合い”と訳すのが最も的確』と教えてくれた」( http://www.footballchannel.jp/2013/06/20/post5745/ )としている。こちらはこちらで分かりやすい。
つまり、インテンシティが高い試合という言葉は、「気合いの入った状態で、ボールにガツガツ行っている試合」くらいのニュアンスで理解しておけばいいのかもしれない。そうした最高に「気合いの入った試合」を見ることができたのが、6月23日に那須スポーツパークで行われた一戦だった。
関東クラブユース(U-18)選手権。その第9位決定戦である。
関東で9番目のクラブユースを決める試合。そう書くと、事情を知らない向きから「ショボそう」と思われてしまいそうだが、「夏休みに行われる全日本クラブユース(U-18)選手権の関東代表枠は9つである」と書けば理解してもらえるかもしれない。つまり全国大会に向けた最後の代表を決める一戦なのだ。
「勝てば全国、負ければ夏合宿」
そんなシチュエーションであるから、当然気合いは十分。日本代表からカナダ代表まで輩出している伝統ある一戦であり、非常にエンターテインメント性の高い試合になることで、ユース年代ファンの間で広く知られている戦いでもある。
そして鹿島は試合前から「空気」を作ってきた。ベンチに入れないメンバーまで全員を会場の那須まで呼び、そうした選手も含めて大円陣。さらに花道まで作ってスタメンの11人が全員とハイタッチを交わしながら送り出されていく。鹿島魂を高める儀式のよう。ブラジル人のキッカ監督が指揮して3年目を迎える鹿島だが、浪花節的な空気感はむしろ増幅されてきたようにも思える。さらにディテールで言えば、背番号も変えて、キックオフ時の並びもダミーのフォーメーションと、かく乱を図っていた。徹底して勝負にこだわるこのマインド。技術以上に、その点こそ“ブラジル”であり、“鹿島”である。
鹿島のベンチ外メンバーはそのまま応援団に早変わり。いわゆる“普通のサポーター”も応援に駆け付けていた鹿島だが、彼らから応援の主導権を“奪い取り”、太鼓を叩き、声を張り上げ、選手たちの背中を押す。まさに決戦にふさわしい空気はこうして作られ、そしてこうなると「インテンシティ」は高まるしかない。おまけに天候は雨模様。必然、試合は一進一退の“1点ゲーム”となった。
結局、この良い意味で泥にまみれた“フットボールらしい”試合は鹿島が1-0で競り勝つこととなった。決勝点は、鹿島MF大竹蓮による魂のこもったミドルシュート。川崎Fも一丸となった反撃を見せたが、最後尾を守る昇格内定の鹿島GK小泉勇人が豪雨の中で存在感を見せていたことも大きく、ゼロ封。最後の全国切符は鹿島の手に渡ることとなった。
この試合を観て「日本の育成年代の試合はインテンシティが低い」とは誰も言うまい。そうした好勝負だった。敗れた川崎Fの選手にとっても、財産になる試合だったように思う。最大限の頑張りを見せて、なお敗れた。しかもあと一歩で大きな栄誉が届くという瀬戸際で敗れた。いまは悔しいだけだろうけれど、その経験はきっと貴重な財産になる。
試合後、「必ずこの経験は役に立つ」とキッカ監督は選手たちに向けて熱弁をふるっていた。まさに然り、である。ただ、キッカ監督はこうも言っていた。「君たちは1位や2位で簡単に予選を抜けるよりも、よほど貴重な経験をすることができたんだ」と。これも「そのとおり!」と思わずヒザを打ちたくなる見識なのだが、「それでいいのか?」と思わないでもない。
この大会、1位や2位で抜けたチームの試合もある。順位決定トーナメントとして催されるわけだが、すでに全チームが全国出場を決めている状態。そのムードは「客のいる練習試合」になりがちである。ハーフタイムや試合後に指導者から一喝されるチームが目立ったのも、当然と言えば当然か。中には甲府U-18のように士気高く臨んで観衆の心を動かしたチームもあったが、多くの試合が「日本の育成年代の試合はインテンシティが低い」と言われても抗弁できないような内容になっていたのは否めない。5位決定トーナメントに関しては、睡魔に誘われるような試合もあった。そして決勝のスコアは8-1。片方が途中で切れてしまったことと、「全国行き決定済み」という状況との間に因果関係がなかったとは言うまい。
インテンシティという横文字を使うと飲み込みづらくなるところだが、「“気合いの入った試合”をいかに増やすか」は、確かに育成年代における一つの課題だ。この9位決定戦のような緊張感のある試合経験は何物にも代えがたい財産であるが、それがレアケースなのも事実である。当然ながら人間である以上、「何かが懸かっているように見えない試合」でテンションが下がるのは当然なのかもしれない。だが、“気合い不足”の試合を重ねることは結果として選手の持つ“可能性”にマイナスの影響を及ぼしていく。「何も懸かっていない」ように見えるゲームも、実際は「自分の未来が懸かっている」からだ。仲間と過ごす時間もまた、有限である。多くの選手は引退するころになってそうした事実に気付くわけだが、もう少し早く気付いてみても損はない。「日本人らしいインテンシティ」とは何かと考えながら、そんなことを思っていた。
なお、今月末から群馬県と横浜市を舞台に開催されるadidas CUP日本クラブユース(U-18)選手権についてはこちら( http://www.jcy.jp/?page_id=3618 )を参照のこと。
(EL GOLAZO 川端暁彦)
2013/07/06 15:46