平成25年5月18日(土)
J1第12節/NACK5スタジアム
「大宮アルディージャ 2-1 湘南ベルマーレ」
左右に木々が居並び、勝手に“雰囲気”を作ってくれる。氷川神社の手前、NACK5スタジアムへと続くこの道は、結構好きだ。首位クラブともなると不思議な威風が……なんてことはあるはずもなく、ここの空気感はどうやら変わっていないらしい。
ただ、いざ到着したスタジアムの空気感は明らかに変わっていた。大宮を追い掛けるライターの平野貴也氏が「まったく違うよ。聞いてよ、この歓声!」と熱く説明してくれたが、ゴール裏だけでなく、メインスタンドの客が持つテンション、勢いまで高くなってきているように見える。熱は熱を呼ぶという。確かに少し見当違いの場面で歓声が聞こえてくる点も含めて「あまりスタジアムに来ていなかった層」が少しずつ足を運び始めているのも感じられた。本紙のほうで、浦和とのさいたまダービーが「大宮というクラブとしてのターニングポイントになるかもしれない」と書いたが、この日のスタンドでそれを再度感じることになった。メインスタンドによくいる「冷めた目でピッチを見下ろしている」ファンの空気がないのだ。
熱が熱を呼ぶというわけで、もともと熱かったゴール裏の温度も上がっている。負傷から復帰した富山貴光がピッチに立ったときからの盛り上がりと一体感は相当なもので、あれで背中を押されぬ選手などいるはずもなく、大宮の勝利は必然とさえ思えてしまった。少々精彩を欠いていた金澤慎が最後に矢のような攻め気の縦パスを入れて渡邉大剛の決勝点を演出したのも、スタンドからのプッシュがあったからこそ。そう見えた。
浦和戦がクラブとしてのターニングポイントならば、湘南戦は今季のターニングポイントだと見ていた。前節は仙台に敗れ、ミッドウィークのナビスコカップでも苦杯。公式戦2連敗という流れで迎えた湘南戦だけに、調子の良かったチームが反転していく、ありがちな“転落チェックポイント”である。選手たちも「ここで負けたらやべえ」と思っているからこそ硬くなる。そんな試合の内容は予想どおりに悪かったが、それでも勝ったのは大宮だった。頑張り切った。ピッチとスタンドは確実に一つになっていた。試合後、青木拓矢のユニフォームを着た男性が思わず「優勝しちゃうんじゃね?」という言葉をこぼしていたのも無理はない。
もちろん、そう簡単に優勝などできるものではない。年間を通した戦いで求められるのは一時の爆発力ではなく、総合力だ。大宮のスターティングイレブンの強さにもはや疑問はないが、14番目、15番目の選手を出してどこまでクオリティーを維持できるか。そしてそれが問われてくるのが、夏以降の戦いである。
ただ、これが話題の2ステージ制ならば、どうだろうか。“1stステージ”全17節のうち12節を終えた段階で2位と勝ち点『5』の差を付けての首位である。「優勝間近」となれば、さらにスタジアムは盛り上がっているだろう。報道量も増え、Jリーグがノドから手が出るほど欲しがっている「あまりスタジアムに来ていなかった層」がより多くスタンドに多く来ているかもしれない。2ステージ制へ回帰するメリットは、ひどく分かりやすい。
恐らく刹那的な盛り上がりで2ステージ制は現行制度に優越するだろう。だが大宮が(仮に)1stステージを制したあとの、2ndステージ。果たして、そこにこの熱は保持されているだろうか。僕の記憶では、かつての1stステージ優勝クラブは非常に高い頻度で、後半戦の熱を失っていった。それが「1stステージ優勝クラブがチャンピオンシップで勝てない」傾向の理由であり、「年間勝ち点1位のクラブがチャンピオンシップ優勝クラブと異なる」傾向の理由であったように思う。「1年」というサイクルで熱を経験できなかったファンは、またスタジアムから離れてしまうだけではないか。
回帰論者の主張は痛いほど分かる。現状のJリーグに危機感を持っているのは僕とて同じだ。ただ、2ステージ制への回帰を主張する際にイメージされるのがJリーグ開幕当初の熱狂ばかりというのはどうだろう。観客動員の低迷は、本当に1ステージ制が原因なのか。1993年から2004年に至る(1996年を除く)2ステージ制を採用していた期間、Jリーグが右肩上がりだったと主張する者はいないだろう。そこにあったのは、むしろゆるやかな衰えだったはずである。
個人的に何らかのプレーオフ制度を設けること自体はあっていいのかもしれないとは思っている。単純に好き嫌いで言えば、好きではないのだが、ベルギー、スコットランド、メキシコ、米国、豪州など、リーグとしてのクオリティーで世界トップにいささか及ばぬ国々は、それぞれ工夫を凝らした仕掛けでファンをつなぎ止めようとしている。この日本でも何らかの装置自体は必要かもしれない。ただ、その仕組みとして、20年前に考案された2ステージ制が本当に妥当なのかどうか。過去の記憶は美化されるもの。20周年記念イベントが続く中、「あのころは良かった。あのころに戻りたい」という思考が先行し、判断の幅を狭めているのではないか。NACK5スタジアムで“じわじわ上がってきた熱”を感じた直後だけに、そんな危惧がどうしても消えない。
(EL GOLAZO 川端暁彦)
2013/05/19 18:51