クラブ記録を更新する6連勝です。同時に、J2昇格後通算50勝を達成しました。
水戸戦の試合後、松田、柱谷両監督の会見、そしてミックスゾーンで栃木の選手からは一様に同じ言葉が聞かれました。それは、菊岡拓朗選手の名。「点が入らないことには0-0でしか終われないという感じの試合になっていた」(松田監督)58分、芸術的とも言える菊岡選手の直接FKで勝負は決しました。MOMには菊岡選手を選ばせていただきました。
しかし、実はもう一人、個人的には最後までMOMにしようか迷った選手がいます。「ミスだらけ」と柱谷監督が言っていたように、確かに水戸はミスが多かったと思います。しかし、水戸の攻撃の“終着点”には必ずパウリーニョ選手がいました。17分に自陣でのインターセプトから圧巻の推進力で決定機までつなげたシーンに始まり、奪った数・ピンチの芽を摘んだ数は尋常ではありませんでした。菊岡選手の一発がなければこの一勝がなかったように、彼がいなければ、先に失点を喫していたかもしれません。
先日のロンドン五輪では、日本がスペインに勝ちました。圧倒的に支配されながら、前線からの守備を惜しまず、前半に挙げた「虎の子」の一点を最後まで守り切った姿は、どこか栃木のような戦い方のように思いました。試合前、「負けない戦い方ができていると?」と連勝の理由を問われた松田監督は、「そうですね」とうなずいた上で、自らこの試合を引き合いに出し、こう話していました。
「それと、サッカーはそう簡単じゃない。昨日のスペインと日本を見ていても分かるように、ポゼッションがすなわち、勝ちにつながるかと言うと、そうではないのでね。(ボールを)失わなければ守備をしなくても良いという考え方もあるけど、それでも点が取れなかったら0-0ということですよね。だから、0-0は保証できるかもしれないけど、勝つということは、別にポゼッションで保証できるわけじゃないですよ。それはアプローチの仕方だけの問題かもしれないけど、ウチのチームはいまは守備からという感じでできている。(中略)昨日の日本の戦い方はすごく良かったと思いますね」
先述の水戸戦はいささかコンパクトさに欠けており、殊勲の菊岡選手も「試合内容が自分の中ではすごく悪かった」と振り返っていたように、良い内容ではありませんでした。しかし、それでも「ただ、いまはディフェンスが耐えられていることが良いことだと思うし、そういう後ろの姿を見て、もっと前も決め切る力を同じ責任感でやっていかなければいけないかな、とは思った」(同)。6試合でわずか一失点(水戸戦を含む)の粘り強い守備に、菊岡拓朗という一発のある“飛び道具”が上乗せされた結果、勝点3とリベンジ、そして6連勝を手中に収めることができました。そうしたあの一点の価値を思えば、菊岡選手をMOMに選ばない理由はないと思いました。
日本が初戦で破ったスペインは、ホンジュラスにも破れ、無得点のまま決勝トーナメント進出の可能性が消滅。フル代表との差は少なからずあれど、ゲームを支配する力は群を抜いていました。しかし、優勝候補とうたわれた“あのスペイン”でも、点が取れなければ、勝利の味に酔いしれることはできない。――菊岡選手の一撃が試合を分けた前節の水戸戦は、どこか重なるものがあったのではと思います。このような思いを込めて、菊岡選手にスポットライトを当てた試合マッチレポートを書きました。照らし合わせて読んでもらえれば幸いです。
次節は千葉との大一番。昇格レースに一気に食い込むチャンスであり、負ければそこから遠のく一戦。この6連勝により上位陣との勝点差を急速に縮めた栃木ですが、昇格を目指す栃木にとってこれは通過点に過ぎません。水戸戦後、松田監督や菊岡選手の口から早くも「千葉戦」というフレーズが出ていたように、地力で勝る千葉に勝ってこそ本物。劇場とも言われるフクアリで、栃木がどんな戦いを見せてくれるのかいまから楽しみで仕方がありません。
(栃木担当 村本裕太)
2012/08/01 16:44