──選出された場面を振り返る前に…明治大時代に書かれた「部員ブログ」を拝見しました。昨年の4年時、後輩に残すためにと書いた「明治の漢の6か条」、とてもいいですね。抜粋すると、①日々全力で生きて、日々成長する、②どんな立場でも役割を全うする、③指先が常に自分に向いている、④感謝の気持ちを忘れずに表現できる、⑤どんな時もチームのために尽くす、⑥明治のことが大好き。素敵な文章で、それも長文でした。
「でも正直、文章を書くのは苦手です(苦笑)。一年に一回書かなくてはならなくて、大変なんです、あれ。ただ、あの6つは、明治だけではなくてどのチームでも、どんな組織に属していても大事なことだと思います。それをやり続けたことによって出るパワーについて、大学生活を通じて実感できた4年間でした。たくさんのタイトルを獲ることができましたし、いま振り返ってもいい4年間でした。あの考えは、今後、どんなときでも生かせるもの。自分のモットーでもあります」
──ということは、いまはヴェルディのことが大好きですか?
「いまは“ヴェルディの漢”なので、大好きです! ヴェルディに入って思うのは、チームメートも、スタッフも、フロントスタッフも、みんながヴェルディのことが大好きで、ヴェルディ愛が強い。その思いがあって動いているチームだと感じています。いいチームに来させてもらったなと感じます」
──佐藤凌我選手は、見た目はイケメンですが、プレーは泥臭いほうだと思います。それは、自分のカラーですか?
「泥臭いプレーは自分のカラーですね。中学生のときから、そのスタイルです」
──明治大時代は多くのゴールを決めていました。多くの先輩や同級生がプロ入りする中で、東京V加入は即決だったのですか?
「オファーをいただいて、早い段階で決めました。やっているサッカーが魅力的ということが一番の理由ですし、このサッカーで自分もプレーできたら、必ず成長につながると思いました。だから、すぐ決めましたね。そして、間違いなく、成長できています。技術はまだまだですけど、その点についても、藤吉コーチにほぼ毎日付き合っていただいて、毎日前進できていると思っています」
──攻守に全力を出し切るようなプレーの特徴はよく表れている一方で、大学同期の持井選手が、「まだ隠しているところ、出していないものがある」と話していました。
「いやいや、全部さらけだしていますよ(笑)。(持井)響太は、自分に腹黒いイメージを植え付けたいらしいんです。でも、ホント、“素”を出しています!」
──4月の月間ベストカットに選ばれたJ2第6節・水戸戦。この試合がプロ初先発となりましたが、当日に先発が決まったんですよね?
「当日の朝、味スタに行く前のミーティングで発表されました。練習ではスタメン組に入っていたりしましたが、発表されるまでは知りませんでした。自分としては、常に出る準備はしていました」
──0-7で敗れた新潟戦直後の試合でした。どんな思いがあったのでしょう。
「新潟戦後に、選手だけでミーティングを行い、すべてをチームの勝利のために尽くそうと確認し合いました。とにかく、結果にこだわる試合にしようとチームとして考えていました」
──それまでの試合では、ピッチ内で選手に迷いが出ていたように見えました。
「新潟戦はやりたいことがなかなかできずに悪い流れのままに一気に主導権を持っていかれた試合でしたが、それ以前もそのあとも、やりたいサッカーの根本は変わっていません。永井監督がチームの根幹として伝えてくれているやり方は変えずに、選手はそれを信じてやるだけだとみんなで話していました。それを迷わずにやったことが水戸戦の結果につながったと思っています」
──水戸戦前には、球際で戦う、走り切る部分も確認し合ったと聞いています。
「その部分なくして、勝利はないと思っていました。ただ、それまでの試合でその考えがなかったわけではなく、意識次第ではあると思いますが、水戸戦は全員のその意識が高まった試合でした」
──そうした強度は、佐藤凌我選手の特長とも合致する部分です。
「それは、特に明治大時代に鍛えてもらった部分で、監督や強化部の方々には、それをヴェルディで表現してほしいと言われています」
──初先発前の心情は覚えていますか?
「少しの緊張感もありましたが、チームのために、いまの自分ができることを全力でやろうとしか考えていませんでした。その思いで、気持ちを作っていました。スタメンに選ばれたからといって、特別うまくなったわけではありませんから」
──ウォーミングアップでピッチに立つ際、ゴール裏に掲出されていた「ヴェルディらしさ=勝利への執念」という横断幕を見たと思います。それはこの表紙の文言にもなっています。
「まさに、それに尽きると思いました。執念なくして、勝ちはない。心に響くものがありましたね」
──試合前、加藤弘堅選手に『とにかく自分の良さを出したほうがいい』と言われたんですよね?
「その言葉が本当にありがたかったんです。自分の中で、若干緊張している部分もありましたが、弘堅さんが『自分のよさを出して、立ち上がりはとにかく前に行け』と言ってくれて、それで迷いは完全になくなりなした。それが、開始早々のゴールにつながったんだと思います」
──その得点はキックオフ直後の2分でした。、右サイドでポストプレーした際に一度奪われましたが、すぐに切り替えて、ボール奪取につなげ、佐藤優平選手に渡してから裏に走って、出てきたボールを利き足とは逆の左足でダイレクトで打って決めました。佐藤凌我選手の特長が詰まったゴールのように感じます。
「まず、奪われたところで一度ミスをしてしまっています。それは見返してもまだまだ足りない部分だと思いました。そこからの切り替えは自分が積み上げてきた部分ですし、シュートに関しては優平さんがいいところでパスをくれたから打てました。ここではチームメートがいいボールをたくさん出してくれますし、出し手に感謝したいですね」
──ゴールまでの思い切りのよさは強みですか?
「なかなか迷いがあって強みが出せないこともあるんですが、常にゴールを狙う姿勢、ワンタッチで狙っていくのは強みかなと思います」
──勝ち越しの2ゴール目は紙面の写真にもなっています。福村選手が入れたクロスに、ファーサイドで若狭選手が折り返したところを決めました。
「CKに対してニアサイドに入っていったんですが、考えてあそこに入ったわけではなく、感覚というか、とにかくゴールを奪える位置に行こうと思って入っていきました。(福村選手のクロスに対して)ファーにいた若狭さんは絶対あそこに詰めている。自分はシュートやこぼれ球を狙おうと思っていました。そこからの折り返しというか、いいところにこぼれてきたボールを、気持ちで、泥臭くねじ込めたかなと思います」
──表紙になったガッツポーズについては?
「あの場面は忘れられないですね。きれいなゴール、上手なゴールではないと思っていますが、高ぶったというか、いろいろな思いが詰まっていたと思います」
──見出しのとおり、まさに救世主、ヒーローになりました。
「試合後には、本当に沢山の方から連絡をもらいました。恩師の方からメッセージをいただきました。ありがたかったですね。一番喜んでいたのは、地元の友達、それと家族ですかね。地元が福岡で、なかなか見に来ることができません。DAZNで応援してくれています」
──あの一日は、佐藤凌我選手にとってどんな日でしたか?
「自分にとっては、プロのスタートラインかなと思います。あの試合がピークではこの先がないとは思っています」
──とはいえ、努力が実を結んだ瞬間だったと言えますか。
「練習後には、藤吉コーチなどがいつも自主練に付き合っていただいて、自分のまだまだ足りない部分をトレーニングしていただいています。自分一人でできたことではないですし、そういったところは、チームメート、コーチに感謝したいです」
──翌節も先発出場で、勝利につながるゴールを決めました。
「水戸戦だけではなく、毎試合、できるすべてを出すつもりで臨んでいます。守備、球際で戦うこと、走り切る…それらは意識次第で全部できることなので、抜かりなくやれていると思っていますし、やらないといけないことでもあります。それが結果につながればベストですが、たとえ点が取れなくても、チームのためにできることはたくさんある。これからも、手を抜かずにやり続けたいと思います」
──連勝に貢献しながらも、その後、琉球、京都という上位を相手に結果が出ませんでした。
「あの時期は、自分の無力さを感じました。J2の上位チームを相手に結果を残せなかった悔しさはありました。スタメンで使ってもらっている以上、FWとして得点を取ることが役目だと思っています。結果につなげられなかったのは、まだまだ未熟なところです」
──その未勝利の4試合では、佐藤凌我選手は多くのタスクがある中で、なかなかゴール前でよさを出せていないように映りました。
「それは自分自身も感じていました。自分のよさを100%出せていなかったのはあると思います。また、自分がやりたいことや、できることだけをやってチームがうまくいけばいいですが、チームがうまくいかない時に、やりたいことだけをやっていいのかというのもあります。チームの戦術を理解して、さらに成長していけるようにするために、先発に入ってからの2試合ではただできることをやっていた感じでしたが、そこからさらに成長できるように、自分に足りないことをやった結果、ああいうふうにチャンスにつながらなかった。自分がプレーするフリーマンストライカーというポジションは、いろいろなタスクがあります。このやり方のチームでやっている以上、バランスは難しいですね。ただ、自分のよさを出しつつ、すべてをこなしたいと思っていました」
──そうやって苦しんだあとにつかんだ、第12節・群馬戦での2ゴールでした。チームを5戦ぶり勝利に導きました。
「勝ちがなかった4試合も、やっているサッカーに自信はもっていました。結果はなかなかついてこずにじれったい部分があったのは事実です。群馬戦でも前半はうまくいかない部分が多かったですが、そこを立て直して結果につながった。今後につながる勝利だったと思います」
──石浦大雅選手の守備からの佐藤凌我選手のダイレクトシュート2発でした。ワンタッチゴーラーの意識はありますか?
「あまり意識はしていなかったんですけど、トラップしちゃうとあまり決まっていないイメージはありますね」
──2点目は、試合後の取材で「あのときはファーの下にシュートコースが見えていた」と言っていましたね。
「迷いがなくシュートを打てているときは、あのように決まるんですが、得点前のチャンスでは打つコースを迷っちゃって、上にふかしてしまった。迷いなく打つことが大事かなと群馬戦をとおしてあらためて思いました」
──チームの今後について。
「チームが取り組むサッカーにはゆるぎないベースがある中で、皆がそれを理解することはもちろん、その上でそれぞれの色を出していくこともできると思います。まずはベースの部分をどれだけ上げていけるか。やるべきサッカーを追求して、一人ひとりがそれを表現していければ、チームはバージョンアップしていけると思います」
──では個人として、今後、どういう存在になっていきたいですか。
「FWとして、コンスタントに点を取って、チームを勝たせられる選手になっていかないといけません。FWが点を取らないとチームは勝てないと思います。一番前のポジションを任されている以上、数字にこだわって、毎試合取り組んでいきたいと思います」
佐藤 凌我(さとう・りょうが)
1999年2月20日生まれ、22歳。福岡県出身。178cm/65kg。次郎丸中→東福岡高→明治大を経て今季、東京Vに加入。J2通算13試合出場5得点。
(東京V担当 田中直希)
2021/05/14 20:39