15年11月27日、岐阜の宮沢正史が今季限りでの引退を発表した。
宮沢は07年、鳴り物入りで大分にやってきた。原博実監督率いるFC東京で扇をひらくような美しい展開力を生かし、幅を使った流麗なサッカーに貢献したことを評価されての加入だった。
だが、ブラジル人ダブルボランチがレギュラーに定着すると、出場機会は減少。08年には仙台へ期限付移籍し、翌年大分へと戻ってきた。
宮沢の存在が大きなものになったのは、田坂和昭監督が就任した11年から。キャプテンとして平均年齢22.3歳という若いチームを率い、唯一の30代として、監督と選手との間を取り持った。
12年には30代の仲間も増えたが、この年、大分はクラブライセンス制度の条件クリアに向け債務超過を解消するために「J1昇格支援金」を募る。選手たちの先頭に立って宮沢自身も街頭募金やチラシ配りに出向いた。サポーターや地元政財界から3億円が寄せられ、あとはピッチで結果を出すだけというプレッシャーのなか、繊細にピッチ内外でバランスを取りながら、ついにJ2の6位からプレーオフを勝ち抜いて、J1昇格という大偉業を果たす。
13年J1では良いゲームをしながら勝てず苦しんだ。ストレスでバラバラになりかけるチームを懸命にまとめながら、難しい舵取りに腐心し続けたが、1年でJ2降格となる。
そのシーズンをもって、契約非更改。「宮沢正史CUP」で子供たちにサッカーの楽しさを伝え、スポンサーやサポーターとも積極的に交流し、大分で引退したいと思っていた。その願いは叶わず、現役続行を選んで岐阜に移籍して以後も、折に触れて大分のことを気にかけていた。
どこかを調整すれば別のどこかがズレてしまう繊細な田坂監督のサッカーを体現しようと、細やかにチームメートたちと話し合うキャプテンだった。ピッチ外ではベテランであることを感じさせない感性で、若手たちと普通に遊んでいた。ファンサービスも丁寧で、報道陣にもこまめに気を配り、囲み取材では、選び抜かれた言葉をそのまま書き起こせば原稿になるようなコメントをくれた。
ミヤさん、15年間本当におつかれさまでした。大分の苦しい時代をキャプテンとして背負ってくださりありがとうございました。今日取れたぶんだけですが、元上司や元チームメートたちからのねぎらいの言葉をお届けします。
■青野浩志社長
「ミヤさん、お疲れ様でした。経営危機が表面化した直後の2010年、正月から街頭でビラ配りを手伝ってくれたミヤさんを忘れたことはありません。その後もキャプテンとして、チームのために、そしてクラブのために、いろんな場面で頑張ってくれてありがとう! 今後も、一個人としてミヤさんを応援しています!」
■柳田伸明監督
「J1昇格を果たした12年のときのキャプテンとして、大分に欠かせない選手でした。彼があのとき体を張ってくれたからこそ、今のクラブがあります。37歳までプレーして、やり切ったと言える現役生活だったと思います。それも彼自身の努力の賜物です。今後もサッカー界でこれまでの経験を生かし、育成の方面でも手腕をふるってもらいたいと期待しています」
■西山哲平強化育成部長代理
「12年にJ1昇格したときは、キャプテンとして本当に苦労を背負ってくれました。そのことに大変感謝しています。引退後の人生のほうが長いので、有意義に過ごしてもらいたいです。縁があればまた一緒に仕事したい人材の一人です」
■DF 3 阪田章裕
「さっき聞いてびっくりしました。45歳くらいまで現役でやるだろうと思ってたから。15年間おつかれさまでした。同じチームでサッカーが出来て本当によかったです。きっと指導者になるんですよね? またいつか一緒にサッカー出来たらうれしいです。あと、一緒にプレーした人が監督になったら応援しやすいので、是非とも監督になってほしいです」
■FW 27 三平和司
「もう一緒にプレーすることは出来ないけど、また違うかたちで関わることが出来たらうれしいです」
■GK 21 上福元直人
「偉大なキャプテンとサッカー出来たことは至上の喜びでした。…え、ふざけてないッスよ(笑)。本当にありがとうございました!」
■DF 16 安川有
「プロ1年目から本当にいろいろとお世話になりました。感謝しています。今後は指導者になったりするのかな? きっと向いてると思います。またどこかで会うと思うので、これからもよろしくお願いします」
■DF 5 若狭大志
「僕がプロ1年目で右も左も分からないときにいろいろ教えてくださったこと、感謝しています。プロになって最初のトレーニングマッチ、Aコートでのスポーツカレッジ戦のこと。僕のポジショニングが悪く、何度も同じミスを繰り返していたみたいで、ミヤさんにブチ切れられましたよね。そのときの僕はまだミヤさんの人柄を知らなかったのでそれが普通だと思ってたんですが、試合後にスガさん(菅原大介ヘッドコーチ・現千葉コーチ)から『あの温厚なミヤがあれだけブチ切れるっていうのは余程のことだよ』と教えてもらって、はじめて『ああ、それほど自分はひどかったんだな』と気付きました。あのことは本当に忘れられません。ありがとうございました」
■FW 9 後藤優介
「イジっていただいてありがとうございました」
(大分担当 ひぐらしひなつ)
2015/11/27 20:25