『DAZN・Jリーグ推進委員会』で今季からスタートしているエル・ゴラッソの月間表彰。マッチレポート紙面から、その月で一番グッとくるカットを表彰する「Jリーグ月間ベストカットbyELGOLAZO」では、J1第33節浦和vs柏のマッチレポートで描かれた、汰木康也選手のゴール場面を10月のベストカットに選出した。
2戦勝ちなし、ACL出場権獲得のためには負けられない試合での大量5得点。中でも、自身初の複数得点と結果を残して勝利に貢献した汰木に、柏戦のことや現在のチーム状況、タイトルへの思いなどを聞いた。
取材日:11月17日(水) 聞き手:沖永 雄一郎
――エル・ゴラッソによる、10月度の『月間ベストカット』に、第33節・柏戦(5○1)から得点後の汰木康也選手を選定させていただきました。まずキャスパー・ユンカー選手のパスから決めた1点目の場面について。汰木選手がゴールの右側から打っているシーンがそもそも珍しいなと感じました。パスも少し長くなったように見えましたが…?
「そうですね。ちょっと長めにボールが流れたので、逆に思い切って打とうと考えました。あのコースに飛ぶとは思っていなかったですが、しっかり足を振ろう(シュートを打とう)と思って臨んだ試合だったので、それがゴールになったのはうれしかったですし、自信にもなりました」
――もう一つのゴールは山中亮輔選手のクロスを相手がクリアミスしたような形で、ワントラップからワンステップで打つという素早いシュートでした。
「相手のクリアミスというかイレギュラーなバウンドでしたが、ワンタッチ目がいいところに置けたので冷静に打つことができました。トラップが決まっていなかったら余計なタッチをしてしまってリズムも崩れていたかもしれないですが、1点目を取れたことで全体的にボールタッチのフィーリングもよかったので、それがああいうトラップやシュートにつながったのだと思います」
――特に1点目のシーンですが、ゴールしたあとにそれほど喜んでいないというか、結構険しい表情のままだったところが写真にも写っているのですが。
「1点目ですか? うれしかったですけどね(笑)。ガッツポーズとかはあまりしないほうかもしれません」
――ちなみに、ルヴァンカップのグループ突破を決めたときの試合(第6節・横浜FC戦、2○0)で表紙に使わせていただいたことがあったのですが、ゴールしたあとのポーズがマイケル・ジャクソンみたいだと話題になっていました。これは決めポーズだったりするのでしょうか?
「決めポーズみたいなことはしないですね。表紙になったその号は親に見せてもらいましたけど(笑)」
――親御さんに喜んでいただいたのはありがたいですね!プロでは初の複数得点だったと思いますが、ご自身の変化など影響はありましたか?
「特にないですかね(笑)。柏戦の次の試合でもいいフィーリングで臨めるなと思っていたのですが、ゴールに絡めなかった。いい波に乗っていけると思っていたのに、最近はあんまりうまくいっていないので、継続できるようにしたいですね」
――ゴールへの意欲がすごく出てきたということも仰っていましたが、ここ最近はシュートチャンスも増えてきていると思います。
「ただそのぶん、冷静に周りが見えていないなというシーンもあります。課題が見つかったのはポジティブに捉えています」
――私のような素人がフットサルやサッカーゲームをやっていると、シュートチャンスとなると本当にゴールしか見えなくなってしまいます。そこはプロの選手でも難しいものがありますか?
「そうですね。でも、そこでほかの人に点を取らせることも自分の仕事なので、どちらもハイクオリティーにこなせるようにしたいです」
――もっとシュートを決め切らなければということも仰っていましたが、決定率は約15%と悪くない数字ではあります。
「いや、全然ダメですね。得点数(今季リーグ戦4得点)も、その倍は取れていたなというくらいチャンスがありましたし、何も満足できていないです」
――この柏戦は久しぶりの勝利になりましたが、好調の9月を経て10月はなかなか勝てない試合が続きました。
「上位チームとの直接対決もありましたし、メンタル的にプレッシャーがかかる試合が続いてしました。正直、内容はよくなかったですし、ウチのやりたいサッカーができませんでした。でもすべての試合で理想のサッカーはできないですし、難しい試合も絶対にあります。勝負どころの2試合(第31節・神戸戦/1●5、第35節・鹿島戦/0●1)で負けてしまい、そういう中でも上位相手に勝点を取っていくところがまだ足りないなと痛感しました。そういうゲームをとっていかなければいけないですし、個人的にはそういうゲームでチームを勝たせるようなプレーをしたいなと感じています」
――9月の調子がよかっただけに、相手が対策してきている面もあったのでしょうか。
「やっぱり前線から強く来ているなという印象はありました。(浦和は)後ろからボールを保持するスタイルなので、それをさせないようにしてきているなというのは感じます。ただ、逆に取りに来てくれるのであれば、裏を突いてスペースを使っていくというのがレッズのスタイルでもあるので、それができないとやってきたことの意味がなくなってしまいます。ポゼッションさせないように前から来てくれたら、それをうまくいなすぐらいの余裕を毎試合持ちたいですね」
――これまでの汰木選手のイメージというとやはり、タッチライン際をドリブルしていくというものだったと思います。今季はかなりピッチの内側でプレーする機会も増えていますね。
「やっと慣れてきたなという感じですね。バランスを見て(外に)張るところと中に入ってゴールに絡んでいくところを使い分けようと心掛けていますが、最近はちょっと、最後の仕掛けができていないなとも思っています。そこは自分の特長でもあるので、中央でゴールに絡むところと、それに加えてサイドからチャンスメークするところは毎試合出せるようにしたいです」
――今は内側に入るポジショニングが多いですが、そこで汰木選手が相手のSBを止めているからこそ、山中選手が生きているようにも見えます。チームとして、狙って立ち位置が取れている感じでしょうか。
「そうですね。立ち位置は大事にしていますし、僕とヤマくん(山中)はお互いの特長も分かっているので、お互いのよさをもっと引き出せればと思ってやっています。ただ二人とも攻撃に特化しているので、守備で狙われるようにもなってきています。当然相手も研究してきますから、こっちのサイド(左サイド)でボールを握られて攻め込まれることも増えてきました。それで攻撃に力を使えないという試合が続いているので、最近うまくいっていない原因の一つでもあると思います。そこをどう二人でバランスをとるか、特長も出さないと意味がないですから、残り試合で改善できるようにやっていきたいと思っています」
――いまのような立ち位置を大事にするサッカーでは、ボールには触っていないけど仕事をしている、というシーンもあると思います。サッカー選手はやはりボールに触ってプレーしたいものだと思いますが、難しさを感じることはありますか?
「いや、そんなことはないですね。まったく触れない状況だとストレスですが、二人ぐらいの間を取って、相手を止めておいて外を空けたりする。それもやっぱり攻撃の一つですから、ネガティブに感じることはないです」
――中央でプレーする場面も多くなってくる中で、ご自身のプレースタイルや理想のプレーが変わってきているように感じることもあるのでしょうか?
「変わるのではなく、今までのスタイルプラス、プレーの幅が広がったという印象ですかね」
――チーム全体を見ていて、いま取り組んでいるサッカーが、選手たちに対してもっと得意なことを増やすように要求しているようにも見えます。
「できることを増やすというよりも、浦和が開幕からやってきているサッカー、ポゼッションで試合をとおして優位に進めていくサッカーをまだまだ改善しなければいけません。そこを突き詰めていく感じだと思います。もっといい立ち位置を取れる場合もあるので、そこにこだわってやっていけたらいいなと思っています」
――今季は『3年計画』の2年目ですが、昨年は大槻前監督がなんとか整理しようとしているという印象があって、今年はリカルド・ロドリゲス監督がベースを築き上げています。2年間のスパンではチーム状況をどう考えますか。
「どちらの監督からも得るものは多かったです。自分としては、どんなサッカーを要求されても応えられるような柔軟なプレーヤーを目指しています。やっぱり浦和レッズとして、攻撃的なサッカーをやることは誰が監督をやっても変わらないと思いますから、どんなスタイルでもクオリティー高く体現できるようにしたいですね」
――いまのリカルド・ロドリゲス監督のサッカーが、今後のレッズのスタイルとして確立されていくような空気はありますか?
「どうですかね、長いスパンでの将来を考えれば、ずっとリカさんが監督を続けられるわけではないですよね。このサッカーが基準になるかどうかは分からないですけど、浦和レッズは攻撃的にいくという方向性が以前からありますし、僕が外から見ていた昔のレッズもそうでした。これからもそこは変わらないと思うので、浦和でサッカーをしている以上は、自分がスタイルを一番体現できる選手になりたいと思います」
――昔のレッズのスタイルというとカウンターなど縦に速い攻撃のイメージが強いので、いまのサッカーとギャップを感じるファンの方もまだまだいらっしゃいます。
「攻撃的なサッカーではありますが、今季はやっぱりポゼッションに特化しているので、ボールを持って進めていく点は違いますよね。昨季はカウンターがストロングだったと思います。選手としては、『自分のプレーはこうだから』ではなくて、いろいろなものを吸収してピッチで表現できないと価値がないですから。自分はそういうのが苦手なタイプで、いろいろプレーがなんでもできるわけではないので難しい部分もありますが、一つの課題としてチャレンジしているところです」
――今季も開幕から先発で出ている中で、序盤はなかなかチームとしても結果が出ませんでした。そして汰木選手がサブに回っていた4月、5月にチームが勝ち始めていました。やはり悔しさはありましたか?
「ありましたね。なんで試合に出られないんだろうと思っていましたけど、ピッチで表現するしかないとも思っていました。プレーで見返してやろうという気持ちで腐らずにやっていたので、徐々に結果につながってきたと思います」
――内や外でいろいろなプレーを求められる中で、序盤はなかなか持ち味を発揮しきれていなかった時期もあったと思います。コツをつかんだ瞬間や試合というのはありますか?
「うーん…これといった瞬間はないと思います(笑)。徐々に徐々に慣れながら、ですかね。自分の特長を出すことが一番だとは思ってないので、割り切ってやっていた部分もあります。外でのドリブルなど、どこかで自分の好きなことをやりたいというのもありましたけど、サイドでうまいプレーをするためにサッカーをやっているわけじゃないですから。割り切る部分と、自分のストロングを出さなきゃいけないという気持ちのバランスは探り探りでしたが、最近は慣れてきたなと思っています」
――リカルド・ロドリゲス監督についてもお聞きしたいのですが、先日の練習後、クールダウンに交じって通訳さんなしで監督が選手に話しかけているシーンもありました。
「何をしゃべっているのか、分かるときと分からないときがありますが(笑)、そういうことに関係なくコミュニケ――ションを取ってくれるので、選手としてはうれしいというか、やりやすい部分もありますね。いつも『ゴール!ゴール!』と言ってくれて、そこを求めているのが伝わってくるので、自分もその思いが強くなっていると思います。モチベーションをもらっていますね」
――まだシーズンは終わっていませんが、始動時と比べて成長してきた実感などはありますか?
「キャンプのときは、まだみんな立ち位置も分かっていなくて、練習試合でボロボロに負けた試合もありました。それでも開幕戦はいいサッカーができて、後半戦は結果もついてくるようになって安定してきました。ただ、やっぱり上位相手の試合が続くと結果がついてこなかった。浮き沈みは結構ありましたけど、やりたいサッカーのイメージは同じものを共有できていると思います。成長度がどのくらいかと言われると、まだ50%くらいですかね」
――今季は上位になかなか勝ち切れていませんが、勝つために足りないなと感じているものはありますか?
「チームとして、試合をとおしてボールを握って、崩していくという理想のサッカーをもっと突き詰めることだと思います。ラストのクオリティーという課題もありますが、そこにいく前の段階で(相手に)試合を有利に進められてしまっていますから。改善の余地はまだすごくあると思っていますし、自分たちが有利に試合を進めるためにまだまだ突き詰められることはあると思います」
――天皇杯も含めて、今季最終盤の試合への意気込みをお願いします。
「全勝できるように、自分が全勝させられるように、ゴールメークのところでもっとクオリティーを高くするなど、こだわってやりたいと思います」
――期待しています。最後にご自身の目標についてお聞かせ願えればと思います。
「自分はまだ経験をしたことがないので、タイトルを獲得したいとずっと思っています。チームにそれをもたらせるような選手になりたいですし、そういうチャンスがいま目の前にあるので、そこはやはり獲りにいきたいと思います」
汰木 康也(ゆるき・こうや)
1995年7月3日生まれ、26歳。神奈川県出身。183cm/70kg。横浜FM.JY→横浜FM.Y→山形を経て、19年に浦和に加入。J1通算68試合出場5得点。J2通算91試合出場6得点。J3通算18試合出場1得点。
(BLOGOLA編集部)
2021/12/10 21:52