[連載インタビュー・海を渡った志士のいま第5回] 「日本で過ごした10年間に本当に感謝している」（ルーカス）

　かつてJリーグに所属し、現在は海外でプレーする選手たちがいる。あるいは、海外から“外国”である日本を選んだ選手たちもいる。自らの可能性を懸け、海を渡ったフットボーラーたちにフォーカスするシリーズインタビュー「海を渡った志士のいま」。第5回に登場するのはFC東京とG大阪に所属したルーカス。五輪代表として嘱望されたストライカーが、プレーの場として日本に来た理由とは? 本人も予想しなかった約10年にわたる日本での思いを語る。

[協力：ブラステル株式会社]

聞き手:下薗昌記取材日:6月17日
写真提供：ルーカス

（写真）ルーカスは19日（現地時間）ナタウで行われた日本vsギリシャ戦を家族全員で応援に訪れた

大きなデザフィオ

――ルーカス、まずは、ブラジルの五輪代表でプレーしたり、20億円を超える移籍金でフランスに移籍したりしたあなたが日本でのプレーを選んだ理由を振り返ってください。: 「最初にエル・ゴラッソが僕のためにページを割いてくれたことがうれしくて仕方がないね。僕もエル・ゴラッソのことはよく知っているからさ（笑）。さて、日本に来た理由を話そうか。実はオファーを受けたとき、僕はあまり日本のサッカーについて知らなかったんだ。移籍の一番の決め手になったのはケリー（01年から04年までFC東京に在籍）の存在だね。アトレチコ・パラナエンセ時代のチームメートだったケリーは、すごく僕を手助けしてくれた。でも、僕にとってJリーグへの移籍を決めたのは大きなデザフィオ（挑戦）だったんだ。フランス（レンヌ）への移籍は正直成功とは言えなかったし、ほかの国の文化に接する機会を求めてもいたんだよ。でもまさか、これほどFC東京とG大阪でうまくプレーできるとは思っていなかったし、10年も日本で過ごすことになるとは想像もしていなかったよ（笑）」

――当時の日本のサッカーの印象はどうでしたか?: 「お世辞抜きに本当にビックリしたよ。なぜなら日本人がこれほど技術的に高いと思っていなかったし、ディシプリン（規律）もしっかりとしていた。それに僕が移籍した当時、04年のFC東京は非常にスピーディーで運動量も多いチームだったけど、決して走るだけのチームじゃなかった。あのとき、僕はすでに日本のサッカー界が将来的には強くなるだろうなって予感がしていたよ。それはもう証明されているよね」

――当時、誰か印象的な選手を覚えていますか?: 「具体的な名前を挙げると、3人の仲間は特に印象に残っているよ。まず一人目はコンノ（今野泰幸／現・G大阪）だ。彼は守りも攻撃も秀でていた。そして僕が大好きだったのはイシカワ（石川直宏）だね。ものすごくスピードもあるし、強烈なシュートもうまかった。そして3人目はカジヤマ（梶山陽平）だ。彼のテクニックは印象に残っている。イシカワとカジヤマはクラッキだと思ったね」

――移籍当初は適応に苦労したと聞きましたが?: 「本当に大変だったよ。君は知らないだろうけど、FC東京に移籍してきてからの最初の半年は、自分でも酷いプレーだったと思うんだ。ブラジルと違って日本はボールタッチを少なくしないといけないし、それに運動量が求められるからね。最初は本当に難しかった。でも僕は何とかして日本で成功したかったし、当時の監督だったハラさん（原博実／現・JFA技術委員長）がすごく僕をサポートしてくれた。低調だった僕をハラさんは辛抱して信頼し続けてくれたんだ。もしあの当時の監督がハラさんじゃなければ、僕はとっくに退団していたはずだ。G大阪ではニシノさん（西野朗／現・名古屋監督）にお世話になったけど、FC東京時代のハラさんは僕の恩人だよ」

――原さんからはどういうアドバイスを受けたのですか?: 「運動量も求められたけど、一番言われたのはポジショニングのことだね。そしてフィニッシュについても『もっと落ち着くように』とアドバイスをもらった。ハラさんも現役時代はFWだったから、練習後には居残りのシュート練習にも付き合ってくれたしね」