ただ、大熊監督が前からボールを奪いに行く姿勢を崩さなかったのは、作戦ミスではなく、明確な理由がある。暑くて苦しい環境だろうと、相手がどんなにうまくボールを回すチームだろうと、「それでもボールを奪える」「最後まで走れる」選手こそが、未来のセレッソを担う選手だという確信があるからだ。
「南野拓実は最後までチームのために走りつつ、さらにゴール前での仕事もできる選手だった。山口螢もそうだったよね。じゃあ、お前らはどうなんだ? その程度でトップに行けるのか? 20分で足が止まる選手で本当にいいのか? そういうことなんです」と大熊監督は強く語る。「強い個を育てたい」というのは、もはや口癖のような信念だ。選手に言い訳を許さず、やり切らせるのが、まさに大熊スタイルである。
引いてブロックを作り、「相手に回させる」イメージで守るというのは、ポゼッション型のチームを破るための“もう一つの正解”だろう。特にこの暑さの中では、もしかすると最善手だったかもしれない。だが、大熊監督はその選択をしなかった。「決して負けにいったわけではないよ」としつつ、「失敗や失点を恐れるなということ」と語る。その“正解”を選手に与えても成長しないし、次につながらないという信念があるからだろう。「この負けから、いい財産をいただいた。一つの指針になるゲームだったと思う」とした上で、「これから、この試合をネタに選手をイジメられますから」とジョーク混じりに結んだ。
もちろん、まだこの大会についてあきらめたわけでもない。これで1分1敗と苦しくなったことは確かだが、決勝トーナメント行きの可能性が消滅したわけではないからだ。「やり切りますよ」と大熊監督。“若桜”は、最後の椅子に滑り込むべく、明後日に東京ヴェルディユースとの最終戦に臨む。
(写真:星智徳)
(EL GOLAZO 川端暁彦)
2013/07/26 18:44