先日の練習後、長崎のDFリ・ヨンジが北朝鮮代表選手としての思いを語った。
「あの人たちを超えたいと思うし、上に行くためには超えなければいけない」。リ・ヨンジがそう語るのは対戦相手のことではない。リ・ヨンジのいう「あの人たち」とは、MFリャン・ヨンギ(仙台)、FWチョン・テセ(清水)、MFアン・ヨンハ(横浜FC)ら10年W杯南アフリカ大会出場を達成した選手たちのことである。
「テセさんもヨンハさんも海外でプレーしたし、ヨンギさんは仙台で絶対的な存在として活躍して、ACLにも出場した(13年大会)。自分もあの人たちのように高いレベルに行きたいし、行かないといけないと思っている」。北朝鮮代表チームはロシアW杯アジア2次予選で敗れてしまったが、先月には25年ぶりとなる外国籍監督就任が報道されたとおり、同国の代表強化への機運は高まっているという。
だが、日本と北朝鮮の間には国交がなく、政治的な問題も付きまとう。日本で生まれ育ち、何度も代表選手として日本と北朝鮮を行き来してきたリ・ヨンジでさえも、「最近になってようやく、空港でカバンの中を全部出さなくてもよくなった」と言う状況であり、選手の視察なども簡単にはいかない。以前、海外遠征先で水に濡れた日本代表のユニフォームを持ったときは、その軽さに衝撃を受けたという。だが、リ・ヨンジは「そんな環境が北朝鮮代表の強さを生んだのかもしれない(笑)」と笑い飛ばす。
かつて、リ・ヨンジがリャン・ヨンギ、チョン・テセらに憧れたように、最近ではリ・ヨンジ自身が在日朝鮮人の子どもたちから憧れの存在となり、目標とされているという話を聞くことが増えたそうだ。その子どもたちのためにも、自分が「あの人たち」を超えないといけないと強く思うのだという。北朝鮮代表は、来年の東アジア杯まで大きな代表戦は予定されていない。「その間にまずはJリーグで結果を出さないと」(リ・ヨンジ)。幸いにも「あの人たち」のうち二人は同じJ2で戦っている。超えるチャンスは十分にある。
写真:藤原裕久
(長崎担当 藤原裕久)
2016/06/08 16:32