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　かつてJリーグに所属し、現在は海外でプレーする選手たちがいる。自らの可能性を懸けた者。戦力外になった結果、海外を選んだ者。あるいは日本を海外として選び、母国に戻った者もいる。シリーズインタビュー「海を渡った志士のいま」。第2回はタイプレミアリーグでプレーする元・鹿島の岩政大樹の声をお届けする。日本に比べてまだまだ成長の途中にあるタイサッカー。鹿島時代から“教え魔”であった“先生”は、チームメートに教えつつ、ある意味学びながら、自らの新たな挑戦を続けている。

[協力：ブラステル株式会社]

聞き手:田中 滋 取材日:5月2日
Photo: Atsushi Tokumaru

サッカーに表れる国民性

――まずは、なぜタイリーグを選んだのかをあらためて聞かせてください。

「日本国内のクラブも選択肢にないわけではなかったのですが、海外に行けるんだったら行こうと思っていました。世界中どこでも、と思って探し始めたのですが、現在の世界不況の中でサッカー選手としてちゃんと評価をしてもらえるところを考えると、僕の年齢ではアジア以外は難しかった。日本と同等でACLに絡んでくるようなリーグに行く選択肢もあったのですが、タイのようにこれからサッカーを強くしたい国やクラブのほうが僕を必要としてくれているな、という印象が段々と強くなっていきました。年齢もありますし、少しレベルが落ちるけれど、そういうところにあえて行くほうがおもしろいかもしれない、という感情が出てきたんです。初めての海外生活ですし、ある程度の大都市に住みたい。そこでバンコク市内のクラブを探したところ、ほとんどの条件に合うクラブが見付かりました。運命だと思ってテロサーサナへの移籍を決断しました」

――テロサーサナは岩政選手の若手選手を教えるに長けるキャラクターを分かった上で、オファーをしてくれたんですか？

「どこまで分かっているのか分からないのですが、モニ（茂庭照幸／バンコク・グラス）もタイに来たように、タイサッカー全体の意向として、経験のある選手をリーグに入れたい気持ちがあったようです。日本人はほかの外国籍選手のように和を乱すようなことはほとんどないし、タイはもともと親日国。日本人の人間性も含めて、アジア枠も日本人をより推奨しているクラブは多いですね」

――とはいえ、岩政選手のブログを拝見するといろいろ苦労がありそうです。

「大学のときは大学選抜、プロに入ってからはACLや日本代表で海外のクラブや代表チームと対戦するたびに、その国の文化や国民性がサッカーに反映されていて面白いと感じていました。同じサッカーなのに国によって全然違うので、国際試合はすごく面白かった。やはり、タイにはタイの人間性と文化と国民性がありますね。『マイペンライ』という『なんとかなる』という意味の口ぐせがあって、サッカーでもそういう人間性が出る。一般的な生活を送るぶんには、のんびりしていて人は良いし、ストレスも感じないと思います。失業率も1%以下のレベルなのですごく暮らしやすい。でも逆に言うと、サッカー選手でなくても暮らしていけてしまう。物価も安く、あえて苦しいことを選ぶ必要がないのでハングリーさに欠ける面があるんです。サッカーは、苦しいところをあえてやっていかないと勝てないスポーツなので、そこはどうしても問題になる。その辺の意識の差は大きいと感じています」

――クラブのオーナーや監督などの上層部の人たちは、そこを強化するために日本人を呼んでいるのでしょうか？

「なくはないかな。でも、テロサーサナでも、すぐに僕のポジションが確約されているかと言えば、そんなことはありませんでした。タイでは、外国籍選手は7人まで登録できるのですが、試合に出られるのは4人までというルールがある。まず外国籍選手同士で7分の4の椅子を奪い合います。移籍してすぐのころは、自分のポジションを確立することが必要でした」

――自分の地位を確立するまでに苦労はありましたか？

「僕の場合はありがたいことに、存在を知られた状態でこちらに来た、という面がありました。チームメートもある程度リスペクトしてくれましたし、クラブもそういう姿勢で迎え入れてくれました。ただ、ある意味そこでハードルが上がっちゃった（笑）。だから、始めから違いを見せないといけませんでしたね。『あれ?』と思われ出すと、リスペクトが崩れるのも早いので。チームを変えるという前に、自分の存在が認められないと何も変えられない。周りの選手に何かを言うより先に、プレーや意識を自分で示すことが大事でした」

――実際にプレーした感想はいかがですか?

「スタジアムはそんなに大きくない。だいたい1万人規模ですが、それがほぼいっぱいになるくらいです。盛り上がりはある程度あって、東南アジア特有の情熱的な雰囲気があります。ただ、日本もサッカーを観る人のレベルが欧州に比べると低いと言われていますが、タイはもっと低くて、その場の空気を楽しんでいるだけの人もいる印象です。サッカーの質を見ると言うよりは、お互いのゴール前で盛り上がったり、体のぶつかり合いで急に盛り上がったりしていますね」

――ぶつかり合いで沸くのであれば、タイ国内での岩政選手の人気は高そうですね。

「ところが海外にいると分からないんですよね（笑）。たまに街を歩いていて声をかけられるようになりましたし、スタジアムではすごく声をかけてもらえるようにはなりましたけど、新聞も雑誌もタイ語は読めないので普段の生活では何も実感がない。ただ、3月はクラブの月間MVPをもらって、4月はまだ発表されていませんが、多分リーグの月間MVPをもらったんですよ。徐々に名前が表に出てきたので、評価が上がっている感じはありますが、とりあえずリーグの順位と自分のパフォーマンスを上げていれば、誰かがどこかで評価してくれているだろうと思うようにしています（※取材時第10節2位、5月12日第12節終了時首位）」

――言葉はどうしているんですか? 通訳もなしですよね?

「なしですね。DFですし、細かい要求もあったのでどうしようかと思ったのですが、それも含めて苦労してみようと思いました。日本でもそうでしたけど、開幕前までの練習や練習試合で細かなことを伝えて、リーグ戦に入ったあとはいちいち言わないようにしています。シーズン前に言ったことをおさらいする、という感じです。例えば、SBが外に意識が行き過ぎている場合は『インサイド! 』と言えば分かるようにしてありますし、ボランチには『ビハインド! 』と言えば分かるようにしていますので、いまは大丈夫です。ひと言で周りの選手も理解してくれるようになっていますから、リーグの中では後ろの連係は取れているほうだと思います」

――それがいまの好成績につながっているわけですね。

「ほぼ失点しないような状況ができています。ウチのディフェンスラインは、僕以外はみんな20歳前後です。ボランチも20歳ぐらい。彼らはみんなタイの若い年代の代表に入っていますが、聞く耳があるというか、吸収しようとする姿勢も積極的です。そのこともあって早く連係を取れるようになったと思います。ディフェンスラインから中盤までの作りの段階は、タイの中ではできるほうだと思いますよ。日本の皆さんにはイメージできないかもしれないですけど、ディフェンスラインから前にボールを付けるのは僕にしかできない。こちらでは僕が指令塔のようになって後ろからつないでいるんです（笑）」

• 「マイペンライ」との戦い