5月よりスタートしている、西部謙司WEBマガジン「犬の生活」。メインコンテンツはジェフユナイテッド千葉ですが、東アジア杯を戦う日本代表について西部謙司が分かりやすく、“Jリーグ選抜”とも言われる今回の日本代表の正しい見方を解説しています。今回はWEBマガジン「犬の生活」で掲載した、中国戦のコラムを全文公開でお届けします。キーワードは“アピール”ではなく、“総選挙”です。
■東アジアカップの見方
コンフェデ杯に続いて、東アジア杯についても原稿を書くことになりましたが、こちらは現地取材には行っておりません。緒戦を見る限りではフィールドもかなり荒れているみたいでしたが、細かいところはよくわかりません。
まあ、この大会自体がぶっちゃけそんなに結果は関係ないわけで、日本代表とは名乗っていますが、実質的にはJリーグ選抜であります。新戦力のテストがすべてといっていいでしょう。とはいえ、中国、オーストラリア、韓国との3連戦はなかなかいい経験にはなりますし、競技である以上は目の前の試合にベストを尽くすことに何ら変わりはありません。そういう真剣勝負の世界で生きている監督や選手ですから、おかしな試合にはなりませんけどね。
じゃあ、どういうふうに見ればいいんでしょうか。そのへんも含めて、ざっくりした東アジア杯の感想になります。
■“アピール”の違和感
「柿谷、ザックにアピール弾!」こんな見出しをよく見かけます(今回どうなったかはまだ確認してませんが)。そのたびに個人的にはすごく違和感がありました。
中国戦ならまだわかります。ところが、Jリーグで得点しても「アピール弾」なわけで。柿谷はC大阪の選手として得点しているのであって、日本代表へのアピールも何もないわけですよ、本来は。「米倉、アシストでザックに強烈アピール!」なんて見出しを見たら僕は笑います。というか腹立たしい(笑)。
アピールの意味は訴えることです。哀願、懇願も入ります。「みてみてザックさん、調子いいでしょ。僕を代表に入れてよー」ということですよね。あのね、代表はアピールして入るもんじゃないです。むしろ「来てください」なんです。招集ですから「来なさい」かもしれませんが、クラブで働いている選手を協会側が呼び出しをかける。国のために「力を貸せ」なんです。代表に選ばれるのは名誉ではありますが、選手はあくまで「お願い」される立場なんですね。アピールなんて、さもしい言葉は相応しくない。このへんはメディアの悪い慣習でしょうね。
とはいえ、今回にかぎっては公開オーディションなんで普通の代表戦とは趣が違っています。東アジア杯に勝つためというより、今後の代表に必要な人材を選定する場になっている。“日本代表・総選挙”なわけです。しかし、それぞれの選手が自分勝手に“アピール”なんぞに走り始めたらサッカーになりません。あくまでチームゲームですから。チームとして勝利を目指しながら、自分の個性も出していくという難しさがある。でも、『AKB48』の女の子だって勝手に振り付け変えたりしないですよね。チームプレーの中で個性を際立たせて貢献する、まあ当たり前のことをすればいいわけです。
■ザッケローニ監督の思惑
中国戦の先発を振り返ってみましょう。GKが西川周作、彼は川島永嗣のバックアップとしてずっと代表入りしていた選手です。ニューフェイスではありません。栗原勇蔵、駒野友一、槙野智章もそうです。そのほかはほぼ新顔なわけですが、[4-2-3-1]のフォーメーションと各ポジションの役割は従来のチームに合わせています。
森重真人は今野泰幸の「代役」になります。フィードが良くてカバーリングに長けているタイプのCBの枠として、つまり今野枠としてのテストになる。工藤壮人は運動量と得点感覚の岡崎枠です。同じように長谷部誠と似たタイプとして山口螢を、本田圭佑枠としての高萩洋次郎を起用しました。つまり、代表メンバーとしてどうなのかを見るわけです。個々の特徴はJリーグで確認しています。良い選手なのはもうわかっている。東アジア杯のチームを来年のW杯に向けて強化するつもりはさらさらないですから、この中から従来のチームに食い込める人材をチェックするだけです。
ザッケローニ監督はこれまで強化してきたチームのメンバーと戦い方を大きく変えるつもりはないのでしょう。ですから、東アジア杯に勝つために個々の特徴を生かした編成をするつもりなど最初からありません。従来の枠に当てはめて、やれそうな選手をピックアップするだけです。バルセロナのBチームが、トップと同じ戦術でやるのと同じです。それで下部リーグ優勝をしたいのではなく、すぐにトップに上げても適応できるようにしている。それと同じことです。
■柿谷だけが合格点
そういう意味で、中国戦で最も点数を稼いだのは柿谷曜一朗ではないですかね。フィールドがアレなので、けっこうらしくないミスを連発していましたし、大半消えていたのも事実です。ただ、1得点1アシストは十分な結果であり、その瞬間に柿谷が示した才能は前田遼一のポジションを奪えるレベルでした。これは個人的な感想ですが、彼のプレーには一種の狂気が含まれています。あの怖さは前田にはありません。W杯の舞台での戦いを想定すると、ぜひとも残しておきたい才能です。一次テストはパスでしょう。もともとこのポジションは人材不足で競争率が低いという事情もあります。
その点で、工藤は合格ラインぎりぎりでしょうか。プレーぶりは柿谷よりいいぐらいなのですが、彼の競争相手は柿谷ではありません。岡崎なんです、監督の使い方をみると。岡崎を凌駕するのはハードルが高いです。バックアップとしてどうかというぐらいですね。
原口元気はよーく動いてました。高萩も何度か素晴らしいプレーがありました。ただ、香川&本田の代役としては厳しい。バックアップとしても難しいかもしれません。トップ下の二番手は香川真司か中村憲剛ですからね。左も清武弘嗣、乾貴士がいて、岡崎だってやれる。そうすると原口、高萩は二番手というより三番手以下というのが現状の位置でしょう。三番手以下では通常W杯のメンバーには選ばれません。
山口螢は有望だと思いました。“長谷部枠”には細貝萌がいますが、攻撃面では細貝よりいいでしょう。一方、存在するかどうかも怪しいのが“遠藤枠”です。中国戦では青山敏弘が先発起用されました。これは妥当だと思います。遠藤の役割を維持するとしたら、青山以外にいません。ただ、ザッケローニ監督は遠藤の代役探しをしてこなかった。遠藤でなければ細貝だったわけで、中村憲剛ですらボランチでは使いませんからね。遠藤がいなければほかのやり方という選択なわけです。遠藤枠を確保しようという気を監督に起こさせるほどのプレーをしたかといえば、中国戦の青山はそこまでの活躍ではなかったと思います。
森重はけっこう重要なキャスティングだと思っています。監督は今野と同じタイプのCBを選出してきませんでした。ある意味、遠藤枠と同じ扱い。それが今回は今野タイプの森重を選出した。もし、森重で納得できれば今野を中盤に使うプランもありだと思うんですよね。その点で今後の編成全体にかかわるキャストではないかと推測しています。ただ、中国戦では森重にGOサインは出ないでしょう。あと2試合使ってみて判断するしかない。むしろ今野と組ませる想定で起用した栗原が乱調、安定感満点のはずの駒野もアレレという感じで、こちらは予想外に頭痛のタネが増えてしまったという…。左SBの槙野は攻撃はともかく守備は相変わらずな感じで、長友佑都の牙城に揺るぎなし。
3失点の西川はちょっと気の毒でした。彼の持ち味はビルドアップです。そこをうまく生かせば川島を超える存在になりえるのですが、フィールドがアレで、チームもナニでしから、あんまり特徴を発揮できませんでした。川島に代えるほどの理由が見つからない感じですかね。
というわけで、一次選考の合格者は柿谷だけという感想になります。あとは交代出場の高橋秀人、大迫勇也、齋藤学も含めてレギュラー争いは難しく、バックアップの枠に入るかどうかという印象でした。
齋藤については、ちょっと補足したほうがいいでしょう。おそらく期待されているのはスーパーサブ的な役割だと思います。短い時間で流れを変える切り札ですね。タイプは違いますがハーフナー・マイク、中村憲剛、同じドリブラーの乾、復帰すれば宮市亮あたりとの競争になるでしょう。たぶん次戦(豪州戦・25日)は豊田陽平を長い時間テストするのではないですかね。日程も厳しいですし、柿谷の最終テストは3戦目に回し、豊田を試すような気がしていますが、僕はザッケローニ監督ではないので違うかもしれません。
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(BLOGOLA編集部)
2013/07/22 18:15