試合前に届いたメンバー表を、思わず二度見しました。「GK 21 丹野研太」って、えええ。前日は普通に練習していた清水圭介選手。聞けば体調不良により発熱したと今朝連絡があったらしく。勝てばプレーオフ進出が決まる大一番で、ホーム最終戦という大事な試合。守護神の突然の変更で、チームに動揺はないのか。経験豊富な丹野選手と言えど、心の準備をする時間があまりにもなさ過ぎな展開です。
そんな心配をよそに、チームは前節以上の、今季最高とも言えるクオリティで快勝してくれました。この日の入場者数1万7028人、ホームゲーム入場者数通算350万人を達成した大観衆の前で、丹野選手の見せ場が足りないくらい、前線からの連動したプレスが効き、攻め込まれても最終ラインでことごとくはね返しての危なげない守備。アンド、そこからの全員攻撃。
「動揺がなかったと言えばうそになるけど」と、試合後に田坂監督は心境を明かしてくれました。ちょうど2日前に、第3節・アウェイ山形戦の映像を見返したときのこと。その試合では、万全な状態ではない選手を無理して使ったのだが、やはりそれはよくなかった。そこで自分にうそをついてはいけない、コンディションのいい選手を信じて使わなくてはいけない、とあらためて考えていた直後に、清水選手ダウンの一報。「これは何かの知らせだったのかなと思った」。責任を感じ、体調不良を押してでも出たいと言う清水選手に「今日は休め」と言い渡し、準備していた丹野選手の起用に踏み切ったのだそうです。久々のベンチ入りとなった上福元直人選手がベンチから積極的に声を出しチームを鼓舞したことにも言及し、「GKチームで、失点を0に抑えてくれた」と評価しました。
見事に仕事を務めあげた丹野選手は、「(清水選手は)イエローカードを3枚ためておきながら他のGKにポジションを譲らず粘っていたのに、ここに来てこれかよと思った」と苦笑い。「僕に限らず試合に出られなくて苦しんでいる選手、けがをしている選手、いろんな状況の選手がいる中で、その気持ちがすごく分かっていたので、僕がここで活躍するのはチームにとってもいいことだと思った」。
ほぼ同じことを、前節12試合ぶりに先発した永芳卓磨選手も言っていました。共にシーズンを過ごし育んできたチームの結束。阪田章裕選手が、手関節骨折で離脱中の西弘則選手のレガースを着けてこの試合に臨んだことは、それを象徴するようなエピソードです。「で、清水選手のは…?」と尋ねると「アイツは自業自得やから勝手に寝とけって感じです」とおちゃめに笑っていましたが、ディフェンスリーダーとして守備を統率し、丹野選手を助けた阪田選手のプレーは、いつも以上に気迫満点でした。こうなると“体を張って”チームをひとつにまとめた清水選手のことも、「陰のマン・オブ・ザ・マッチ」と呼びたくなってしまう…というのは冗談だとしても。
試合後のミックスゾーンで、実況の小笠原アナウンサーがこっそり教えてくれた、いい話。2002年、初のJ1昇格を決めたあとJ2優勝を遂げた第42節・ホーム川崎戦のこと。この試合、72分にGK岡中勇人選手が指を痛め、小山健二選手と交代しているのです。「だから守護神のアクシデントはね、昇格とか優勝とかの通過点かもしれないよ」。
最後に、これで昇格の可能性がなくなった山形について。シーズン序盤からクオリティの高い誠実なサッカーで六度も首位に立ってきました。大分時代と変わらない、山崎雅人選手の献身的なチェイスや、小林亮選手のムードメーカー振り。名を挙げればキリがないほど、実力派のプレーヤーも多いです。奥野監督は「継続と詰めの部分」と、自分たちに足りなかったものを真摯(しんし)に振り返りました。「勝負の分かれ目のところを磨き、タフさと質を追い求めていく必要がある」。
これは大分にも言えることだと思います。最終節の相手である松本は、後半戦に入って調子を上げている。アルウィン独特の雰囲気の中で、その相手を倒さなくては自動昇格の目はありません。ヒーローインタビューで「僕たちはまだ切符をつかんだ訳じゃない」と語った宮沢正史キャプテンに率いられ、揺るがぬものを勝ち取りに行きましょう!
(大分担当 ひぐらしひなつ)
2012/11/07 14:12