著者は杉山茂樹氏。システムを論ずるイメージがサッカーファンには色濃い、数多くの著書を執筆してきた著名なスポーツライターである。まず、その偏った印象を覆してくれるプロローグから本書は始まる。
布陣、戦術の前に語るべきこと――。サッカーを見る上、語る上で重要になるベーシックな部分は、チームを司る監督の「拘(こだわ)り、色、哲学」であると論ずる。その〝色〞はピッチに広がり、実際に試合の中で形作られる。だからこそ、監督が何を考えているかが肝要である、と。
その後の本章で取り上げられるのは、ほとんどが「ロマンチスト派」と称される指揮官たちだ。著者がその思考にいたく共感したフアン・マヌエル・リージョに始まり、彼の哲学を引き継ぐジョゼップ・グアルディオラとFCバルセロナの話へと展開していく。その中で、バルセロナが現在の形に至った裏でつながるリージョとの関係についても、独自の取材から得た情報で明かされる。これは、欧州でも積極的に取材を重ね、リージョ、グアルディオラ、そしてモウリーニョ、ヒディンクなど、数多くの有名監督を取材してきた著者だからこそ書くことのできるもので、興味深い。ロマンチストと言われるのは、彼らに確かな拘りがあるから。その拘りの一端を、覗くことができる。〝早くしてプレーヤーの道を閉ざされた監督〞が多く紹介されるのも一つの特長だ。〝一流プレーヤー上がりの監督〞より、おしなべて懐疑的な目で見られやすい彼らは、理論と情熱、そして得た結果によって徐々に地位を確立してきた。リージョしかり、モウリーニョ、アフシン・ゴトビもそのうちの一人だ。彼らには、ほかの監督に比べて分かりやすい〝色〞があって、チームをけん引している。そこに面白みと深みがある。
最後に著者が主張するのは、観戦者も〝拘り〞を持つこと。これには私も同感だ。「結果だけに興味があるなら、インターネットで調べれば良い」と、この本の中にも登場するランコ・ポポヴィッチ監督(FC東京)はよく話している。
あなたにも、サッカーに対する拘りはあるか――。 (田中 直希)
(BLOGOLA編集部)
2013/04/01 16:05