歩んで来たサッカー人生を本人が振り返る一冊だ。率直な語り口のため、読みやすく、〝素〞の感情が伝わってくる。構成は全5章。プロ入りまで、大分〜C大阪所属時、ロンドン五輪、ニュルンベルク、そして日本代表での出来事と各章が区切られている。章の終わりごとに彼を取り巻く人物の話もあり、清武弘嗣を一人の人間としても、より深く理解できる。
印象に残ったのは、自身の精神面について言及する部分。一貫して、弱さを隠すことなく赤裸々に綴っている。例えば、大分でプロ入りしたときは「マイナス思考で、落ち込み方がハンパじゃなかった」。C大阪で香川真司の後継者として見られていたときは「プレッシャーが増し、オレのメンタルが悲鳴を上げ始めた」。自身について「人からどう見られているか気にする性格」と分析しているが、それは感受性が人一倍豊か、ということでもある。彼とともにプレーした誰もが「キヨ(清武)とはやりやすい」と口をそろえるが、その内面の繊細さはプレースタイルにも表れている。それでいて、ロンドン五輪時のようにチームを引っ張るリーダーシップも兼ね備える点が清武の魅力だ。
代表の話では、ハーフタイムで交代となった昨秋のベルギー戦におけるロッカールームでの出来事や、 本田圭佑にアドバイスを受けた話、香川への思いなど、メディアには出ていない興味深いエピソードも満載。本書がW杯に挑む彼の気持ちを理解する一助となるだろう。
取材対象者として私が彼と接したのは、C大阪に在籍していた2010年から12年6月まで。妻の真梨子さんが「大阪に行く前はかわい弟みたいな感じだったと清武について話していたが、私も初対面では、〝先輩の後ろで踊るジャニーズJr〞のような印象を受けた。それが、2年半で見違えるように大人の男へ変貌していく様は圧巻だった。プライベートでの結婚という変化も含め、人見知りを自認する彼がどう自分を変えていったのか。本人がこの本で振り返る記述は興味深い。清武の武器は〝弱さを知る強さ〞。本書を読み終わった後は、弱さを受け止め、前向きに明日へと走り続ける彼を応援したくなるはずだ。(小田 尚史)
タイトル:明日への足音
著:清武弘嗣
出版社:小学館(2014年5月15日発売)
定価:1,512円(税込)
四六判/235ページ
(BLOGOLA編集部)
2014/06/09 12:15