Jリーグの長い歴史の中には数え切れない登場人物たちがいる。その中でこの岡山一成は、一人で何役を務めてきたのだろう。
本書のタイトルでもある『岡山劇場』は、彼がいくつかのクラブを渡り歩き、サポーターなど周囲の人々を巻き込み盛り上げていく中で、作り上げてきた〝場〞のことである。現在の岡山は関西社会人リーグ1部の奈良クラブで、プレーヤーのみならず、〝奈良劇場〞の支配人として忙しい日々を送る。
喜怒哀楽、すべてがハイテンションだ。彼が各地で経験したこと、それに伴って、揺れ動いてきた感情。本書の中で次々繰り出される言葉は切実で熱い。彼は声を出し続ける。ゆえに衝突も数知れずあった。それは、本人がいくつか過激なエピソードも含めて自ら明かしており、それらの経験を経たからこそ、その先の経験で生きたこともあるという。
「ウジウジしていた」などと記されているように、挫折の数も多い。それでも岡山は行く。声の限り叫び続け、進む。チームが変わっても、チームの〝舞台〞が変わっても、岡山一成という人物は変わらない。
2008年12月、当時所属していた仙台での契約更新はなかった。出場が叶わなかったJ1・J2入れ替え戦が開催された磐田の地で、「ユアスタにブーイングを浴びに帰って来ます!」と宣言したとき、一体何人がこの言葉を信じただろうか。
その後、2010年夏に浦項(韓国)の一員としてユアスタでの親善試合に姿を現した。2012年には札幌の一員として、当時のJ1の舞台でユアスタにブーイングを浴びに来た。極めつけは、今年の7月、天皇杯2回戦だ。奈良クラブの一員としてユアスタに三たびやって来ると、自らの決勝点で番狂わせを演出してしまった。そして天皇杯で次に戦う相手が、先の宣言に関わる磐田なのである。
18年間のプロサッカー選手のキャリアのうち、この部分だけを見ても岡山は振幅の激しい人生を送っている。たとえ彼と同じ生き方はできなくとも、本書に記された彼の生き方を知ることで、新たな感情がわき起こる読者も多くいるに違いない。岡山劇場の公演は続く。岡山一成よ。君は、どこまで行くのだろう。(板垣 晴朗)
タイトル:岡山劇場 声は届き、やがて力となる
著:岡山 一成
出版社:サンクチュアリ出版(2014年4月24日発売)
定価:1,296円(税込)
四六判/160ページ
(BLOGOLA編集部)
2014/08/21 17:55