キリン株式会社 ブランド戦略部 小笠原順子、梁高徳
長きにわたって日本代表の『オフィシャルスポンサー』を務めてきたキリングループは、今年度から『オフィシャルパートナー』となり、さらに多様かつ深い形で日本サッカーを応援している。11月には日本代表監督のヴァイッド・ハリルホジッチ監督が実際に子どもたちの指導にあたる『KIRINキャンプ』を実施予定で、現在は参加選手を募集中。プロジェクトを担当しているキリン株式会社の小笠原順子氏、梁高徳氏に、このキャンプについて、そして日本サッカーを応援し続けるキリングループの哲学について話を聞いた。(取材・西川結城、写真・徳丸篤史)
キリンの新しい応援の形
―今回の『KIRINキャンプ』という企画はどのようにして立ち上がったのですか?
小笠原
「昨年の9月くらいです。2015年度から弊社が日本サッカー協会(以下JFA)の『オフィシャルパートナー』になるということで、これまでもJFAならびに日本代表をサポートさせていただいてきましたが、以前とはまた違った応援の仕方を検討しようという考えからこの企画がスタートしました。本当に最初は『何を始めようか?』というところからでしたが、最終的には多くの人に興味を持っていただけるような施策を立ち上げることができました」
―ハリルホジッチ監督が中学生を直接指導することが今回のキャンプの目玉企画となっています。これに至るまでには、まず今年の3月に企画を一般公募したところから始まっていますよね。
小笠原
「今まではどちらかというと、こちらが考えた企画を実行していくというスタイルでした。ただ、ファンやサポーター、そしてお客様の意見も取り入れて、一緒に未来の日本代表を強くすることを考えていくことが、KIRINの新しい応援の形なのではないかというところに行き着きました」
梁
「集まったアイディアの中で非常に多かったのは、海外留学や海外経験を若い人に積ませたいという意見でした」
小笠原
「あとは忍耐力や精神力といったところへの声も多かったです。『日本人の勝負弱さを若いうちから克服させたい』というようなご意見でしたね。メンタルの強化に関する考えはたくさん集まりました。サッカーをするお子さんをお持ちの親御さんからサッカー指導者の方など、あらゆる方から声を寄せていただきました。小さいお子さんからの意見もありました」
梁
「全部で約4000件集まりましたので、本当に有り難かったです」
―ハリルホジッチ監督をキャスティングされたのも面白い人選だと思います。
小笠原
「ハリルホジッチ監督に関する報道などを見たり聞いたりしていると、ただサッカーを指導するだけではなくて、選手としての日頃の態度や秩序、チームの力を総合的に上げていくための工夫などが印象的でした。それは中学生を含めた育成年代には非常に響く内容なのではないかという点も、決め手となったポイントでした。多感な世代の中学生に、人として、選手としての基本を指導することはとても大切であると感じました」
梁
「実際にA代表の選手の方たちも、ハリルホジッチ監督と接することで練習への取り組み方も変化したというお話を伺いました。そこは指導者の熱意があってこそでしょうし、その熱さが若い選手たちにも伝わっていけばいいと考えています」
本気で日本代表になりたい中学生に来てほしい
―スポンサーの立場の企業がお金を支援する形ではなく、実際にその競技の強化の一端に関わるというのは新しいスタイルですね。
梁
「今年度から『オフィシャルパートナー』として、今までのスポンサーとしてのお付き合いだけではなくて、JFAさんとKIRINでお互いのビジョンや課題を共有して取り組んでいきましょうという精神があります。そこでわれわれも単純に金銭でサポートするだけではなくて、日本サッカー、日本代表を強くしていくためにはどうするべきかと考えて、こうした企画も生まれました。JFAさんにもそれに賛同していただきました」
―今回、若い年代に視点を当てた理由とは?
梁
「KIRINはサッカーを応援する、サッカーを通じてサッカーにかかわる人々を応援する企業であるという考えが会社の根底にあります。A代表のスポンサーとしてだけではなく、サッカーに関わる人々の生活や、人そのものも応援していきたいという思いもあります。代表チーム以外にも何か積極的に応援していけないか。そういう考えのもとで始まりました」
―梁さんは実際にご自身もサッカーをやられていたそうですが、こうしていまの立場で日本サッカー界と関わることについてはどう感じていますか?
梁
「日本代表については、私も一人のファンとしてこれまでも接してきました。強くなってほしいですし、強くなるためにはどうすれば良いのかを素人なりに考えていました。若い世代のところから強化して、しかもA代表と同じような一貫した指導ができればいいなと思っていました。そういう意味では、今回の企画はすごく有意義なものだと思いますし、私自身も期待度が高いです。今回参加した選手たちが日本代表にまでなってもらえたら、これほどうれしいことはないですね」
―小笠原さんはシドニー五輪に出場した元水泳選手ですが、アスリートとして懸ける思いもあるのでしょうか?
小笠原
「そうですね。目標を持って、夢を持って頑張っていればいるほど、挫折を味わって壁に直面する機会もあります。思いどおりに勝つことができなくて、それでもそんな自分に打ち克つ精神力の強さも必要になってきます。それは小さい子どもたちながらでも、いろいろな局面を経験するものです。私も実際に小学生、中学生のときに、憧れの選手や指導者からかけてもらった言葉が今でも心に残っています。そういう壁にぶつかったときの一声が、大きく自分の背中を押してくれる。そういう体験を作ってあげられたらいいなと強く思っています。やはり影響力のある方に直接何かを語ってもらうことは、アスリートにとっては大きな力になります。その声を支えにその後も頑張っていけますし、逆に自分が見えていなかった甘さなどを指摘されることで、普段の練習への取り組み方を変えることもできます」
―さらに今回は中学生だけではなく、指導者の方を集めての講習会も行われるそうですね。
梁
「今回は30名と募集する中学生の数は少ないのですが、指導者の方にも加わってもらうことで、そこからの広がりを期待できるのではないかとも考えました」
―現在その30名を募集中ですが、実際にどんな素質や能力を持った人材を選ぶ予定ですか?
小笠原
「応募要項の中には、サッカー歴や50m走の記録、今までの大会の経歴といった欄もあります。もちろんそれらを踏まえて総合的に見させていただきますが、それぞれ具体的に何を目標にして頑張っているか、そんな直接的な声も入れていただくようにしています。そこは一人ひとり漏れることなく、重点的に読ませていただこうと思います」
梁
「本気で日本代表になりたい、日本を強くしたい。そう思っているような気持ちの強い中学生にぜひ来てほしいですね」
小笠原
「実際にいまの日本代表の選手たちも、中学生のころからエリートだったわけではない選手もたくさんいると聞いています。今回の応募欄には自己PRの欄も設けていますが、そこで熱い思いや将来への主張を存分に語ってもらえればとも思っています」
これからも皆さんと一緒に日本サッカーを応援していきたい
―1978年のジャパンカップからKIRINは日本サッカーと深い関わりを持っています。社内でもそうした歴史は語り継がれているのですか?
梁
「そうですね、KIRINが昔からサッカーを応援していたというのはもちろん知っていました。実際に自分が入社して、あらためて78年から始まったということを知って、なぜ長い間こうした活動をしているのかということは考えるようになりました。当時は日本サッカーも今ほどは世界の中で強くない時期でしたし、国際Aマッチもなかなか戦えない状況だったと聞いています。そのときにKIRINが協賛して、海外の強豪クラブを呼んでマッチメークをしていったということは、いまKIRINの社員でいる自分も誇りに感じています」
―そもそも、KIRINはどうしてJFAと関わりを持つようになったのですか?
小笠原
「関わりを持つようになったきっかけは、当時のJFAの事務所(岸記念体育館)とKIRINの本社がともに原宿でご近所さんだったということのようです。まだサッカー人気が今ほどではなかったときで、スポンサー企業を探される中で、事務所から見えるKIRINに声をかけてみようということで弊社にお越しいただいたのが始まりだと聞いています」
―最後に、『オフィシャルパートナー』としての今後の展望をお聞かせください。
梁
「まずはこの11月のKIRINキャンプを意義のあるものにしたいですし、その後もJFAさん、ファンやサポーターの皆さんとともに、日本サッカーを強化していくような活動をしていきたいですね。今回の形が継続されるかはまだ分からないですが、できればこのように皆さんと一緒に作り上げていく活動は続けたいです。日本サッカーを普及、強化するという考えはブレることなく持ち続けていきます」
小笠原
「KIRINが日本代表を皆さんとともに応援していくということは変わりありません。こうして長くかかわらせてもらってきた中で、さらに未来を切り開く年代の子どもたちにチャンスを与えられるように。またそこで頑張っている選手や指導者を含め、サッカーを通じて人を応援していけるような取り組みを実施していきたいです」
未来のサッカー日本代表を強くする『KIRINキャンプ』
http://ouen.kirin.co.jp/
(BLOGOLA編集部)
2015/09/22 09:00