先週末に再開したイングランド・プレミアリーグ。今回の特集では、日本代表からサウザンプトンに戻った吉田麻也の激しいチーム内競争と、今季ここまでのリーグ戦で躍進を見せる、2位・アストンビラ、3位・スウォンジーに焦点を当てる。
もう丸2年も住めば、街の隅々まで具合は知り尽くしている。「ああ、あのカフェですね。分かりました」。待ち合わせの場所を告げると、二つ返事でそこまで飛んできた。店員から「調子はどうだい」と笑顔で声をかけられ、気さくに英語で返す。イギリス南部の小さな港町・サウザンプトンの雰囲気に、吉田麻也は完全になじんでいる。この2年間は、光と影、両方の道を歩んできた。リーグ戦30試合以上に出場したプレミアリーグ1年目は、順風そのものだった。世界中から集まる強者FW相手に、厳しさと手ごたえを交互に感じる日々を過ごした。2年目の昨季は一転、我慢の時期を迎えた。序盤戦から先発の座を失ったままリーグは進み、結局終盤にはけがも負い、そのままシーズンは終わった。「こんなに試合に出られなかったのは、今までなかった」。そんな吉田が初めて味わう、苦しみ。気持ちの面でも、ある逡巡を抱えていた。
この状況で、自分はチームとどう向き合うべきか。これまでピッチに立ち続けていた吉田は自分の力を出し切り、勝利を目指すのみで良かった。ただ、試合に出られないということは、サッカー選手としてシンプルに貫き続けてきたそのスタンスではいられないということでもある。味方のDFがミスをしてチームが負ければ、自分に出番がやってくるかもしれない。しかし負けが込むという事態は、チームにとっては当然マイナス。そんな複雑な心境を抱えた吉田が出した答えは、こうだった。
「味方のミスを喜んだり、チームが負けるのを望んだり…。そんなこと、やっぱり僕にはできなかった。あまりにも自分らしくない思考ですよ。だからやっぱり、自分の力、アピールでこの状況をどうにかしないといけない」――。
港町によく似合う晴れ渡った空。明るい日差しが大きな窓から差し込むカフェでは、カプチーノを注文した。「やっぱり冷たいのにすれば良かった」と言っては、すぐに炭酸水も飲み干した。ソファに座り、リラックスする。そんな姿勢とは裏腹に、吉田はプレミア3年目を迎える今季に対して「ただただ、危機感しかない」と話した。
「僕も含めて試合に出ていなかった選手にとっては、チャンスであり、ピンチでもある。今季、チームからは出て行った選手が多いけど、その移籍によって資金を得たことで、選手獲得の予算も大きくなった。今後はまた良い選手も獲れるということ。今までいた選手はさらに危機感を持ってやっていかないと放出候補になる。また新しいCBもチームに加わった。1試合1試合がラストチャンスです」
想像していたことは、すぐに起きた。13日の第4節・ニューカッスル戦、開幕から3試合連続でフル出場していた吉田だったが、この試合では新加入のトビー・アルデルバイレルトに先発の座を奪われた。日本代表戦を終えロングフライト後の試合だったという条件もあったが、それ以上にロナルド・クーマン監督はこのベルギー代表DFを試したかったのだろう。そして結果は、4-0のクリーンシート(無失点)。吉田にとって、再び試練となる状況が訪れるかもしれない。ただ、危機感を常に抱いていたからこそ、むしろいまの状況にも動じない。いや、動じてはいけない。やるべきことは限られているが、この1試合で何かをあきらめるほど、いまの自分はヤワじゃない。「プレミアでしのぎを削るとは、こういうことだと思う」
港町だけでなく、吉田はこの刺激的な舞台の厳しさにも慣れ始めている。
(BLOGOLA編集部)
2014/09/19 16:47