12日に現役引退を発表した横浜FCの田所諒が、引退を決意した理由やプロ生活の思い出、そして古巣戦となる今節・岡山戦に向けた思いを話してくれた。
横浜FCは今節、J1昇格に向けて負けられない岡山戦を迎えるが、現役引退の発表はその古巣との一戦を前にしたタイミングとなった。それに関しては「チームが計らってくれたことだと思います」と、狙っていたわけではないと言うが、少し前からクラブに対しては引退する旨を伝えていたという。「ちょっと前の練習試合のときにそういう話をして、僕の辞めようかなと思っている気持ちを強化部の人も察してくれていて、話してくれた感じですね」。引退の決め手については、「これというのはないですけど、前十字をケガしたときにプロってそんなに続けられないなと。ケガが原因では絶対ないですけど、考えるきっかけにはなりました。一回、あそこで引退も覚悟しましたし、あれがきっかけと言えばそうですね」と、昨季9月に負った大ケガが引退を考える契機になったことを明かした。
「まだまだやれるだろう」と感じている人が多い中、引退コメントで「もうおなかいっぱいです!」と独特な表現を用いた田所は、スッキリした表情で現役生活をこう振り返る。
「自分の中では内容濃くやれたかなと思います。11年が長いのか短いのか分からないですが、濃密な11年間でした。そもそもバラ色のサッカー人生を思い描いてプロに入ってきていなくて、もしかしたら1年で切られるかもしれないという覚悟で入ってきているので、そう思うと出来過ぎだと思います。本当にヘタくそで、そういう自分を岡山が拾ってくれて、横浜FCからオファーがくるまで育ててくれた恩があります。そういう意味では自分が思い描いていたものよりも数倍いい現役人生だったと思います。だからもう本当に言葉のままで“おなかいっぱい”です。岡山のときは毎年ほぼフルタイムで出させてもらいましたし、しんどかったですが、いま出られていない状況を考えると、すごく恵まれていたと思います。そのときにお世話になった監督(手塚聡氏、影山雅永氏、長澤徹氏)にはすごくよくしてもらいましたし、横浜にきてもなんやかんや使ってもらいました。そういう意味では11年間中、10年は試合に絡ませてもらって、端から見たら11年は短いかもしれないですけど、自分の中でも1年1年、目一杯やれた11年だったので、本当に充実していたと思います」
その濃密な11年間でも強く思い出に残っているのは小さいころから憧れていた選手と同じチームでプレーできたこと。「僕だけでなくて、親父もオカンもカズさん(三浦知良)が好きで、スパイクもカズモデルを買ったりするぐらい憧れていたので、横浜FCからオファーがきたとき、カズさんとできると思って(移籍を)決めた部分はありました。そういう人に『諒』と呼ばれて一緒にプレーできるとは夢に思っていませんでした。オカンにも『本当にすごいね』と言ってもらえていたので、そういう意味でもここにきてよかったと思います」。17年の第3節・群馬戦、ゴールを決めた三浦を差し置いてキレキレのカズダンスを披露した姿が、エルゴラッソ本紙の表紙を飾ったのは有名な話だ。
そして迎える今節・岡山戦に向けて、「たまたまこういう巡り合わせでこういうカードになっているけど、すごく練習をしっかりやってくれている。(古巣の)岡山戦だからとかではなく、十分にメンバーに入る力を出してくれている」と下平隆宏監督はその姿勢やパフォーマンスを高く評価。メンバー入りの可能性は十分にある。
田所本人も「出ていって4年でサポーターも入れ替わっていて、僕を覚えているサポーターは少ないと思うけど、いけたらうれしいですね」と、7シーズン駆け抜けてきたCスタのピッチに立つ意欲を示し、「僕がここまでこられたのは本当に岡山のおかげだと思っていますし、常に岡山のことは心にあります。自分から出ていく形にはなってしまいましたが、それでも僕は岡山が大好きなので、ずっと応援し続けるチームに変わりはないですね」と感謝の言葉を並べた。
来季、プロ人生で初めてJ1でプレーできる可能性があった中での引退を決断した田所。「僕が辞める年の最後の最後に岡山戦があるのは何かの縁だと思いますし、本当に辞めるタイミングとしては今年なのかなと。正直、J1に上がったとしても自分がどれだけ貢献できたか分かりません。J1に上がった年に自分がいられたことを幸せに思えるので、あと2試合、試合に出る、出ない関係なく、しっかり最善を尽くして練習して、チームに貢献できればと思います」とチームのために全力を尽くすことを誓う。
チーム屈指の人格者で、人望の厚い男が下した引退という決断。また一つ、横浜FCにJ1昇格を成し遂げなければならない理由が加わった。
(横浜FC担当 須賀大輔)
2019/11/16 11:28