大分の7試合ぶりの敗戦は、なんとも豪快な負けっぷりでした。
とにかく湘南が素晴らしかった。キックオフ直後からの、全員による速く激しいプレス。この全力の勢いにのまれ、大分は試合の入りに失敗しました。
アップ前にピッチを見に出てきた古橋達弥選手に芝について聞いたとき、古橋選手は「確かに決してよくないです。昨日、監督が芝の状態を写真に撮って見せてくれたので大体分かってました。でもそれは相手も同じ条件なので大丈夫です」と、迷いのない口調で答えてくれました。大銀ドームではその構造上の問題から、毎夏、芝が根腐れを起こしてしまいます。いまも粘っこい土ごと剥がれ、スパイクにこびりつくような状態。これは湘南のようなスタイルのチームにとっては非常にやりづらいのではないかと感じていたからこその質問でしたが、古橋選手の確信に満ちたような表情に、あ、今日の湘南はきっととても強いぞ、と、そんな印象を受けたのでした。
果たして本当に強かったですね。あの口調そのもの、チーム全体に迷いがなかった。流動的な前線に加え両WBが斜めに切れ込んでくるなど最初からすべてを出し切る勢いで走っていて、これは終盤までもつのだろうかと思いきや、早い時間帯から絶妙で細やかな交代策。おかげで常に「フレッシュなイヤな人」がいて、布陣全体が疲れを知らずに試合を運びました。
大分にも意図は見えるのですが、なにしろ気おされた感が否めません。湘南にプレスされ、ボランチとシャドーの間がひらいて前線を孤立させてしまいました。前に送り込む長いパスはインターセプトされ、セカンドボールもことごとく拾われて、なすすべのない時間帯が多かった。1点返したあとの流れで2点目が取れていれば、展開も変わったかもしれませんが…。そして、試合ごとに戦力を入れ替える湘南のやりかたがいい方向に表れ、逆に最近はレギュラーメンバーを固定し安定した戦いを見せてきた大分の方法がよくない方向に出てしまったことも、勝敗を分けたかもしれません。
九州北部豪雨により県内各地で大きな被害が出る中、チームは週の立ち上げから気合の入った激しいトレーニングを行ってきましたが、木曜日は強い雨のためほとんどボールが転がらず。金曜日は雷雨のため予定していた紅白戦が中止になりました。このことを言い訳にはできないと田坂監督も選手たちも口をそろえますが、戦術確認の上でもコンディション調整の上でも、影響がなかったとは言えないのではないか…と書くとやっぱり負け惜しみに聞こえちゃいますかねー。
大分はここまで、内容のともなわない試合でも勝ちきって、現在の順位にいます。それはそれでひとつの強さだと言えますが、やはり上位のチーム相手に勝ち点を落としている現状を考えると、このままでは今後、昇格争いに食い込みつづけることは難しくなるでしょう。シーズン終盤に向けて“本物”の強さを発揮していかなくては。
でもそれは、チームのみんながすでに分かっていることです。第23節草津戦に勝ち首位になった直後から、宮沢正史キャプテンの「僕たちはまだ何も勝ち得ていない」という言葉をはじめ、「もっと上に行きたい」といった向上心が、選手たちからは聞かれました。
まだ何も勝ち得ていない。自分たちのスタイルを築きあげ、揺るがぬ強さを手に入れたわけではない。大分にとっては、まさにその“欠落”が表れた試合になってしまいました。でも、まだシーズンは続いていきます。むしろこの早い時期にこういう負け方をしたことを、あとあと「よかった」と思えるように持っていくのが真のちから。6位に落ちたとはいえ、首位との勝ち点差は2。かかる混戦を泳ぎ切り、最後に笑っていられるように、ここをターニングポイントとして今週もトレーニングは続きます。
いろいろと要素の多い試合だったので、18日発売の本紙マッチレポートにも、このブロゴラにも、書けなかったことが山積み。スマホ対応携帯サイト「速報サッカーエルゴラ」には、両チームの監督と選手コメントのほぼ全文が掲載されます。曺監督が語る遠藤航選手の成長や、古林将太選手のひたむきさ。田坂監督の今後につなげる思いや、大分の選手たちがにじませた悔しさ。彼らの生々しいコメントから、ピッチの中で何が起きていたのかが浮かびあがってくると思います。より深く知りたい方は、ぜひご覧になってください。
(大分担当 ひぐらしひなつ)
2012/07/18 17:25