[連載インタビュー・海を渡った志士のいま] 「しっかりと地を踏んで、頑張っています」（澤昌克）

　かつてJリーグでプレーし、現在はその活躍の場を海外に移した選手の声を伝えるシリーズインタビュー「海を渡った志士のいま」。ここでは、選手たちの奮闘ぶりを広く伝えるべく、本紙掲載後にブロゴラにも転載する。第1回は、5月2日・3日発売の1444号に掲載した、元・柏の澤昌克。「ペルーの至宝」と呼ばれた男が、Jを経て再びペルーに“帰る”までと、現地での生活。南米ゆえのある種のおおらかさと厳しさの中で保ち続けるサッカーへの情熱に迫る。

[協力：ブラステル株式会社]

聞き手:田中直希取材日:4月29日
Photo: Atsushi Tokumaru

柏退団後の紆余曲折

――まず、移籍の経緯から教えてください。昨季柏を退団後、移籍が発表された3月30日までかなり時間が空きました。: 「去年の11月、柏のホーム最終戦でサポーターに挨拶をしたとき、『いつかクラブW杯で対戦しましょう』と言いました。あの言葉は、可能性があったから言ったんですよ。ペルー1部でリベルタドーレス杯に出ているチームからオファーが来ていたこともあって。でもそのあと、家族や周りの人と話す中で、『まだペルーに戻るのは早いかな。南米のほかの国でプレーできたらいいな』と思い始めました。それでブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、コロンビア、カリブのチームにも当たっていたのですが、なかなか話がまとまらなかった。そうしているときに、またペルーのクラブから話が来ました。そこで、『やっぱりペルーなのかな』と。赤い糸で結ばれているって言ったら変だけど…、自分はここ（ペルー）でプレーするべきなのかもしれない。ペルーに帰って来て、なんだか楽しいし、気楽な部分もある。日本より治安もめちゃくちゃ悪いけれど、気を張りながら街をキョロキョロして歩くのも、自己防衛力、危機察知能力を上げるためにはいいかなって（笑）」

――2部のデポルティボ・ムニンシパルと契約されました。: 「本当は1部でプレーしたかった。2クラブくらい話が来ていたのですが、時期が時期だったので外国籍選手枠が埋まっていた。オファーがあったのに入るスペースがなかったんです（笑）。ペルーでプレーしていた過去の経歴や、家族がペルー人ということなどを考慮して、国籍を変えずペルー人選手として登録できるんじゃないかとクラブが協会と交渉してくれた。でも、それもダメになってしまって…。そうなった時点で、1部でプレーする環境がなくなってしまった。『どうしよう…』となっていたときに、自分が在籍したことのある、2部のデポルティボ・ムニンシパルの会長から電話があって、『興味あったら、ぜひ来てくれ』と。今年から、2部リーグで外国籍選手を3人登録できる規定ができたんです（それまでは2人）。それで枠が空きました。ただ2部の16クラブ中、3クラブしかこの規定に賛成していないのに、ゴリ押しで決めちゃった。そのせいで協会も『次は言うこと聞けよ』という駆け引きがある。大人の事情ですね（笑）。そのせいで、4、5人くらいが、選手登録を完了できていなくて、4月27日の開幕戦に何人かの主力が出られなかった…」

――2部に、抵抗はなかったんですか?: 「2部でプレーするなら、地方に行くより首都のリマにあるクラブにいたほうがいい。ムニンシパルはメディアにも一番取り上げられる人気チーム。新聞の一面を飾ることだってあるんですよ。サポーターも多い。そういうこともあって決めました。サッカー選手である限り、少しでも良い舞台、良い環境でやりたい。ムニンシパルは歴史もあるし、愛されているチーム。ビッグクラブでは、勝つと盛大に祝ってくれて、負けるともみくちゃにされてしまう。でもこのチームは勝っても負けても一体感がある。しっかり戦えば、負けてもサポーターも満足する。気持ちを出していない試合や、納得いかない負け方をしたら、大変ですけどね。サポーターはしっかりとそのへんを見てくれている。やりがいを感じています。2部とはいえ、ここにいたら街で声をかけられるくらい注目されていますから」