「いま、日本のサッカーはものすごい勢いでグローバリズムの波に飲み込まれています。世界のサッカーは、ヨーロッパの、それも一部に一極集中しており、その状況が世界のサッカーにとって果たしていいのかどうか。毎週、世界選抜対世界選抜のような以前では考えられないくらい良い試合が見られます。でも、世界それぞれの地域のそれぞれのプロリーグが相当なダメージを受けている。移籍保証金のシステムでは追い付けないようなダメージです。例えばブラジルのコリンチャンスは100年間の歴史があって、コリンチアーノ(コリンチャンスのサポーター)と言えば、『キリスト教、仏教、コリンチャンス』というくらい、宗教と同じくらい根付いている。その中でグローバリゼーションが進んだとしても、コリンチャンス愛は変わらない。一方、Jリーグ、あるいはヨーロッパの中堅国はどうか。Jリーグはこの20年で順調に発展してきたと思うのですが、プロリーグに加盟して20年の歴史を持っているのは9クラブだけ。それ以外では、プロ1年目のクラブもあります。そういう状況の中で選手が30人以上一気にヨーロッパへ出て行くという現象が起こっている。私たちが当初考えていたものとは違うことが起きていて、違うシナリオが必要になってきているのです」
「もう一つはテレビの放送環境。ヨーロッパで莫大な放映権料を生んでいるのはプレミアリーグです。イギリスはBBCとITVしかなかったところに、ルパート・マードックが入ってきて、有料衛星放送の多チャンネル時代になっていきました。良いコンテンツがあればお金を払ってでも見たいというベースがあった上で、サッカーがキラーコンテンツでした。イギリスの家庭のほぼ90%が衛星放送に加入しています。一方日本は無料多チャンネルの時代が長く、全家庭の20%くらいしか衛星放送に加入していません。その中ではイギリスのような潮流は生まれにくい。しかも日本でサッカーはキラーコンテンツではない。メディアとしての環境が違うので、ヨーロッパの成功モデルをそのまま追いかけるわけにはいきません」
「3つ目は、地域社会。プロリーグとして単に成功するだけではなく、人口減少社会の中で地域コミュニティーの核となるようなクラブを作りたいという大きな目標があります。そのこととビジネスを両立させる。あるいは日本代表を強化する。そういうミッションがJリーグにはあるわけです」
「グローバリズムと放送環境、地域社会におけるクラブ。この3つに矛盾なく適応できる打ち手をJリーグはいま必要としています。海外へ一気に選手を引き抜かれる中で、プロリーグが安定したという事例は世界でもありません。逆に言うと、同じことをやっているとリーグの価値が低下する。さらには、中期的な視点も必要です。10年後ヨーロッパのサッカーがどうなっているか。その影響を受けた世界のプロリーグがどうなっているかを想定しながら、打ち手を考えていく必要があります。現在の経済情勢から推測するとヨーロッパのサッカーにさらに一極集中が進む可能性もあります。その場合、FIFA(国際サッカー連盟)、UEFA(欧州サッカー連盟)、あるいはAFC(アジアサッカー連盟)が、世界のサッカーをこのままにしておいていいのか。プロリーグがこのままでいいのか。
7月にマンチェスター・ユナイテッドやアーセナルが来日しました。彼らはこの短期間の間に何をやっていたか。日本企業にスポンサーセールスをかけていた。そういう環境の中で、今までの延長上で明るい未来があるのかどうかを考えなくてはいけない。ここまでが、現在の環境認識です」
(BLOGOLA編集部)
2013/09/11 20:20