日本体育大から18年に加入し、プロ生活は町田一筋6年目。そんな福井光輝が、町田のJ1昇格に、そしてJ2優勝でシャーレを掲げる思いを語った。
–18年の結果で環境を変えてきたシーズンがなければ、J1昇格までたどり着けなかったことを思うと、今回のJ1昇格は感慨もひとしおでは。
「それは間違いないです。ここまで関わってくださった方々がいるからこそ、昇格という結果を成し遂げることができました。このサッカークラブが前に一歩を踏み出せるように、サイバーエージェントの藤田晋社長が経営してくださっていることがすべてだと思っています。藤田社長がいたからこそ、こうして一つの目標を達成することができましたし、大きな感謝の気持ちを持っています」
–日数も経ってきたことで、J1昇格の実感がより湧いてきたのでは。
「実感は湧いていますが、僕たちの目標はあくまでもJ2優勝(10月28日に他会場の試合結果により確定)です。その過程でJ1昇格を達成できたに過ぎません。本番は今週末の金沢戦です。ホームで優勝を決められるチャンスがあるので、もう一度気を引き締めて臨みたいです」
–熊本から帰町して、クラブスタッフの顔を見た際はどんな感情になりましたか。
「ホッとしましたし、スタッフのみなさんが『おめでとう』と出迎えてくれて、会社の方々に感謝しています。スタッフの協力がなければ、僕たちは試合をできません。ホームのイベントではお客さんを集めるために努力してくださっているので、みなさんにも僕のほうから『おめでとう』と言わせていただきました」
–帰宅後、奥様は何と話されてしましたか。
「『おめでとう』と言ってくれました。家で仕事の話はしないのですが、昇格を決めた後からDAZNを見てくれたようで、僕が藤田社長と熱い抱擁を交わすシーンを見てくれていたみたいです」
–古参メンバーの一人として、あらためて今回のJ1昇格をどう捉えていますか。
「すごいですよ。夢が叶いました。ただそれは僕だけの夢ではなく、これまでクラブに携わってくださった方々の夢でもあります。それを代表してピッチに立てたことをうれしく思います。憧れの舞台に行けるのはありますが、その行き方に関しては、優勝してJ1に行きたいです。いまはその思いが強いです」
–あらためて、J1昇格を勝ち取れた要因は?
「選手一人ひとりが目標に向かって、それぞれの立場で役割を全うしてくれました。練習をサボる選手はいませんし、いつも練習で120%を出して試合に臨んでいます。それはメンバー外の練習でもそうです。選手である以上、目標に向かって組織がどれだけまとまるか。その重要性を痛感しました。みんなが同じ方向を向いていました。そのことに感謝していますし、それが黒田監督のマネジメントの成果なんだと思います」
–個人としては終盤までなかなかチャンスをつかめませんでした。心の葛藤があったのでは。
「ありましたけど、僕はこれまでもずっと試合に出続けてきたわけではないですし、試合に出ていないときこそ、別の角度からチームのためにできることや、何が不足しているか。それを考えて行動に移すことで成長できる部分が多いので、そういった意味では充実していました。ケガをして上から試合を見る期間もありましたが、このチームはすごいな、みんな戦っているなと思いました。こういう仲間とピッチに立ちたいという感情が出てきたので、そのままの素直な気持ちや自分の感情に従って日々練習をしてきました」
–今年から不老伸行GKコーチに代わりました。
「道具を使いながら、不得意な部分を改善しようとしてきましたし、今季はよりシュートを止めようという要素が増えました。GKはビルドアップ、クロス対応やコーチング、裏へのケアなどいろいろな仕事はありますが、最後のシュートを止めることがGKの仕事だと黒田監督とも話してきました。それができれば自ずとチームは負けないですし、それを逆算して、トレーニングに組み込んでくれているのかなと感じています」
–リーグ戦ではホームでの山形戦で出場機会が巡ってきました。
「常に試合に出る準備をしているつもりでしたし、それがチームのためになると思ってきました。その前に天皇杯に出る機会もありましたし、J1相手に2試合できました。これをやってやるという正義感ではなく、一つひとつのプレーに対しての質や判断は良かったので、それを試合で出そうと心がけました。今年は単純にシュートを打たれる場面が少ないですし、みんなが体を張っているからこそ、みんなが助けてくれると思っていました。それが5-0という結果につながってホッとしました」
–ホーム最終戦の金沢戦に向けて、チーム内で共有したことは?
「まだ何も決まっていないということです。J1昇格はみんなの成果ですが、優勝してJ1の舞台に殴り込みに行くことが理想です。毎試合決勝のように戦ってきた結果、僕たちはこの順位にいます。次は本当に決勝戦だと思っています。より一層、気を引き締めて試合に臨みます」
–太田宏介選手の引退会見で福井選手は太田選手の後継者に指名されました。金沢戦は太田選手にとって、現役最後のホームゲームでもあります。
「僕は宏介くんのように一流にはなれないかもしれませんが、宏介くんが背中で見せてくれた人としての器の大きさや、常にポジティブなマインドが、チームをプラスな方向へ導いていると思います。僕も宏介くんと似ている部分がありますし、プライベートでも一緒にサウナに行っていろいろな話をしています。宏介くんから引退を聞いた際は寂しかったですが、宏介くんにとっては前向きな引退の話をしてくれました。僕も宏介くんのようにもっと町田というクラブを大きくして、日本のビッグクラブと言えば、FC町田ゼルビアだと言われるぐらいの規模にできればと思います。そのための力になりたいですし、それが宏介くんへの恩返しになると思っています」
–このチームでサッカーをするのもあと3試合です。
「寂しいですね。既存選手より新加入選手が多い中でシーズンが始まって、右も左も分からない選手たちもいました。また(深津)康太さんや(髙江)麗央など、長く在籍した選手がチームを去る形になりましたし、その分僕や(中島)裕希さん、マサくん(奥山政幸)たち思い入れのある選手が引っ張ってきました。だからこそ優勝したいですし、裕希さん、マサくんたち2人の存在があったからこそ、僕自身も町田に対して強い思いを持つようになりました。2人の存在が、ただ単に町田でプロになったわけじゃないんだと気付かせてくれました。それは今まで携わってくださった唐井直GMを筆頭に、丸山竜平さんなど、強化の方が僕にここでプレーするチャンスを与えていただいた結果ですし、ピッチで恩返しをして、今季を終えたいです」
–深津選手や髙江選手にJ1昇格の報告はしたのですか。
「連絡をくれました。チームを去ってもずっと仲間だと熱い言葉を掛けてくれる。それが町田の良さでもあります。根本的に良い組織というのは、関わっていない人からも愛されるものだと思うので、『町田すごいよね。応援してみようと思うんだよね』と思ってもらえるだけでも勝ちですし、そう思っていただけるようなクラブだと思っています。FC町田ゼルビアは泥臭い姿や勇気を町田市民やサッカーファンに届けられると思います。また今回のJ1昇格に関しては、クラブの創設者の一人である重田貞夫さんも遠くで見守ってくれていると思います」
–熊本戦では重田さんの遺影とともに記念写真に収まっていました。
「直接的な関わりはないですが、2、3人でスタートした小さなクラブが、日本のトップリーグに君臨できる。そのクラブを創りたいという思いが受け継がれて、J1昇格という景色までたどり着きました。そしてあともう一歩です。J2の優勝にはなりますが、シャーレを掲げたいですし、重田さんにも届くように、天にシャーレを掲げたいと思います」
–先人たちの思いをしっかりと受け継いでいるのですね…。
「僕が言うのはおこがましいですが、重田さんとともに守屋実さんなどご苦労されてきた方々がいたからこそ、こうして僕たちは大好きなサッカーを仕事にできているわけですし、ピッチで戦えるチャンスを得られています。もう一度ゼルビアファミリーとしてまとまって優勝を勝ち取る。重田さんもきっとそれを望んでいると思います」
–ちなみにシャーレを掲げるイメージは?
「シンプルに掲げたいです。裕希さん、マサくんの後でいいから。そしてJ1ライセンスがない中でも4位に入った18年の時代を知る僕たち3人が、一緒に前で掲げることができれば、康太くんや相馬直樹元監督にもきっと届くと思います」
–最後にファン・サポーターの方々へメッセージを。
「ここまできました。今季はJ2優勝という目標を掲げ、その道の途中でJ1昇格を手にできました。僕たちよりも長い年月をかけて足を運んでくださったサポーターの前でピッチに立つ僕たちが優勝を果たして、『おめでとう』とみなさんに伝えたいです。そしてみんなで涙を流したいと思います」
写真・文:郡司聡(エル・ゴラッソ町田担当)
【ホーム最終戦試合情報】
明治安田生命J2リーグ第40節
10月29日(日)14:00キックオフ
FC町田ゼルビア vs ツエーゲン金沢
町田GIONスタジアム
https://www.zelvia.co.jp/news/news-246368/
(BLOGOLA編集部)
2023/10/28 22:13