発する声はフラットなトーンで抑揚は少ないが、高いキーで練習場全体に響きわたる。その声の主は今季から愛媛のコーチに就任した成山一郎氏だ。
その言葉は非常に丁寧かつ穏やか。佇まいも含めて“良い人”オーラを全身から放っているが、選手の物足りないプレーに対してはすぐさま高い要求をする言葉で奮い立たせ、良いプレーには間髪入れずに褒め言葉。単なる“やさしいコーチ”にとどまらず、チーム内での信頼度も高い。
チームの主軸である河原和寿も成山コーチに高い信頼をおく一人。「本当にサッカーをよく知っているし、良いことも悪いことも明確に指摘してくれる」とその仕事ぶりを高く評価。だからこそ「それに応えるために自分たちは結果を」と奮起する気持ちが芽生えるという。
成山コーチは昨季まで関西学院大サッカー部で7年間監督を務め、15年にはエース呉屋大翔(現・G大阪)を率いて総理大臣杯、インカレと二つの日本一を含む4冠でその年のタイトルを総なめにした手腕を持つ。
しかし、プロの現場での指導は今季が1年生。監督という立場で選手とは一線を置いていた昨年までとは大きく変わり、「監督のやりたいサッカーができるようにサポートし、選手それぞれの立ち位置での要望を聞いて、少しでも役立つことを」と指揮官と選手との橋渡し役を献身的にこなす。選手たちの気分を乗せる言葉の数々も「(先輩コーチらが)すごく良い声をかけてアップをさせ、練習でも良い声をかけているのを見て見習わせてもらいました」と意欲的に取り入れた。
そして、成山コーチには大きな財産がある。関西学院大では元日本代表監督・加茂周氏という偉大な指導者に師事。多くを学んだ中で当時は理解できなかったことも「プロの高いレベルになってようやく(加茂氏が)こういうことを言っていたんだ」とあらためて開眼。
「いまでもハッとさせられる言葉が思い浮かんでくることがありますし、そういうのはずっと大事にしないといけない」
かつての師からの財産を生かし、指導者としての引き出しを確実に増やす成山コーチ。ただ、選手は躊躇なく褒めるが、取材時での自身への褒め言葉には恐縮しきり。
しかし、そんな謙虚な姿勢もその実直な人となりを表す魅力のように思えた。
(愛媛担当 松本隆志)
2017/10/27 12:36