著者:後藤 健生(ごとう・たけお)
発行:5月20日/出版社:ミネルヴァ書房/価格:2,500円(本体価格)/ページ:296P
紡いできた悲喜劇。スタジアムで振り返る20世紀
本書は、「なぜスタジアムがその場所に建設されたのか、そこで何が起こったのかを振り返り、20世紀という時代を読み解くものだ」。
著者はエルゴラッソ本紙でもおなじみの後藤健生氏。国内外のサッカーに精通し、試合のみならず、その背景にある政治、歴史、社会にも造詣が深い後藤氏が、あらゆる視点から、スタジアムを語り尽くす。
第1章では、ギリシャやローマの古代スタジアムを出発点に、そもそもスタジアム(競技場)という祝祭的な空間がいかにして生まれたのか、どのように発展していったのか、その歴史をたどる。
第2章では、第一次世界大戦が終結し、恒久的平和が訪れた(と思われた)国際社会において、世界各地で誕生した大規模スタジアムを紹介する。
第3章では立地、第4章では機能やデザインといった建築物の観点からスタジアムを考察。第5章では、全体主義とスタジアムの親和性から、ムッソリーニやヒトラーといった独裁者との関連を語り、第6章では、戦時下にスタジアムが果たした機能を語る。第7章では、遺産としてのスタジアムの価値、第8章ではその近代化の過程をたどる。
そして、最終章では日本のスタジアムの現状とその将来に言及する。日本のスタジアム問題といえば、当初の改築案が白紙撤回されるなど右往左往した、20年の東京五輪メインスタジアムである新国立競技場の一件が記憶に新しいが、歴代メイン会場の大会後の使用状況などを例に挙げながら、そのあるべき姿と問題点を指摘する。
また、都市公園法の規定で、スタジアム建設に際しては陸上競技場が現実的な選択肢となっていたのがこれまでの日本のスタジアム事情だが、ことサッカーにおいては、各自治体で新たな取り組みがなされ、一昨年の長野Uスタジアム、昨年の市立吹田サッカースタジアム、今年のミクニワールドスタジアム北九州など、球技専用スタジアムが立て続けに新築・改築されている。今後も京都、沖縄など建設ラッシュは続く予定だ。
専用スタジアム建設の機運が各地で高まっているいま、戦争や政治の荒波に翻ろうされ、形や役割を変えながら、喜劇も悲劇も紡いできた“スタジアムたち”の物語をあらためて振り返ってみてはいかがだろう。
(BLOGOLA編集部)
2017/07/23 12:00