「トシ(高木俊幸)、下がれ。ナイス、ナイス。トシ、もうちょい右。そう、いいよ、いいよ」。前線に入った誰もが「安心する」と口をそろえる平川の指示。そんな平川忠亮の声が浦和の練習場に響きわたった。
3日のJ1最終節で年間勝点1位を勝ち取った浦和。8日からは天皇杯4回戦・川崎F戦に向けてボールを使ったトレーニングが始まった。平川は今季、ACLで先発出場1試合、ルヴァンカップで途中出場1試合したのみ。リーグ戦の出場はない。7月から9月上旬までは負傷離脱していたこともあるが、公式戦の出場機会は激減した。それでもチームの中には平川を筆頭とした“出場できない選手”をルヴァンカップ優勝やリーグの年間勝ち点1位の原動力として挙げている選手も多い。
ベンチ入りすらままならなかった37歳のベテランだが、試合に出る準備をまったく怠ることはなかった。メンバー外の選手が残って大原で行うトレーニング。そこでも平川は「残っているからこそできることと、やらなければいけないことがある。常に自分たちが出たときのイメージを持ちながら、そのために必要なこと」に全力を尽くした。
その姿勢は高木にも影響を与えた。ベンチ入りさえできない日々が続いた5月から6月。高木は腐りかけた。しかし、平川を筆頭にベテラン選手が全力でトレーニングしている姿を見て、自分を省みた。その後の高木の活躍は言うまでもないだろう。
無論、平川らも他人のためにやっていたわけではない。「自分たちが出たらこういうプレーをしたい、というイメージを持ちながら、自分に足りないものを磨くため」に全力を尽くしてきたにすぎない。リーグ戦が終わり、残すは天皇杯とチャンピオンシップ(とクラブW杯)。試合数は残り少ないが、平川はこれからも試合に出るために全力を尽くすだろう。そこに“手抜き”の発想はないはずだ。
(浦和担当 菊地正典)
2016/11/08 18:36