「PKを外すことができるのは、PKを蹴る勇気を持った者だけだ」
非情なPKをめぐる名言を残したのはかの元イタリア代表FWロベルト・バッジオだ。
ルヴァンカップ決勝後のミックスゾーンで、そんなイタリアの天才の言葉を思い出させてくれたのは呉屋大翔だった。
「泣いていなかったのは、ちょっとなあ。もう少し新人で外せば、『すみません、すみません』と号泣するのが大体のPKの常なんですけど」と試合後の記者会見で笑いを誘った長谷川健太監督だったが、呉屋はあえて、涙を封印していたのだ。
「行けるか?」(長谷川監督)。当初予定していたキッカーがPKを蹴ることを拒んだことで、急きょ、呉屋にキッカーを打診した指揮官に対して呉屋は「行きます」と即答。その胸の内にあったのは「あのチャンスを決め切れなくて悔しくて、その思いを込めて(蹴ると)言った」。
しかし、キックはGK西川周作に阻まれ、無念の失敗に。涙を見せなかった理由を問われた呉屋は「泣きたくはなかったですね。泣いたら、泣いてしまったら、僕よりもっと悔しい人もいると思うし、それより、あの悔しさをかみ締めて次につなげたいという思いがある」と何かをこらえるように懸命に言葉を絞り出していた。
延長後半の決定機も逃し、ヒーローにはなれなかった。ただ、22歳の大卒ルーキーは間違いなく「勇気を持った者」だった。
(G大阪担当 下薗昌記)
2016/10/16 17:03