著者:清 義明(せい・よしあき)
発行:7月14日/出版社:イースト・プレス/価格:1,500円(本体価格)/ページ:296P
醜い現実を突き付けることこそ、差別主義への最大のアンチテーゼ
サッカーとナショナリズムの間には強い親和性がある。一つの同じチームを応援する人たちを共同体にする回路がサッカーにはあるからだ。代表戦をして「国家の威信を懸けた戦い」などと形容されることがあるのもこのためだ。これが人々の団結と共闘の力となり、心の拠りどころとなれば美談である。しかし、この集団が排他的な意識を持ち始め、敵を作るといったことがしばしば起こる。残念ながらサッカーは排外主義、差別主義とも親和性が高いと言わざるを得ない。
日韓W杯に端を発して暴走を始めた嫌韓の動き、渋谷のスクランブル交差点でハイタッチを繰り返す『自称・日本代表サポーターたち』、旭日旗問題と韓国のナショナリズム、浦和レッズやJリーグが直面した『JAPANESE ONLY』事件など、本書で扱われている題材は枚挙に暇がない。
そして著者・清義明は、問題を直視し、目を背けることなくフィールドワークを繰り返す。そこで登場するのはアウェイ韓国戦で旭日旗を掲げた男、韓国代表のサポーターグループリーダー、浦和のゴール裏コアサポーター、スタジアムでバナナを掲げ無期限入場禁止となった横浜FMサポーターなど、意図的にしろ、図らずもそうなってしまったにしろ、排他的、差別的な行動を取った人々だ。その経緯は千差万別だが、彼らと真っ向から向き合う著者のまなざしだけは決して変わることがない。
このまなざしこそが本書の肝だ。著者自身が序文で「サッカーとナショナリズムの謎を解明しようなどとは思っていない」と語るとおり、本書にはこれらの問題に対する答えが明記されているわけではない。代わりに書かれているのは、著者が向き合い直視し続けてきた残酷な現実だ。しかし、これら現実の醜い姿を突きつけることこそ、生ぬるいお題目を並べ立てるよりも、よっぽど強力な排外主義、差別主義へのアンチテーゼとなっている。
(BLOGOLA編集部)
2016/09/25 12:00