ここ6年間、J1の覇権を分け合い、国内クラブをリードする横浜FMと川崎F。この夏、神奈川の盟主の座を争う両者の対決で新機軸が打ち出された。その名も『BIG神奈川ダービー』――。15日に日産スタジアムで火蓋が切られる一戦を前に、国内各地のライバル対決を経験してきた水沼宏太に“ダービー観”を語ってもらった。
水沼は2008年に横浜FMに加入以降、延べ6クラブを渡り歩いてきた。16年に所属したFC東京では川崎Fとの『多摩川クラシコ』、17年から3年間、所属したC大阪ではG大阪との『大阪ダービー』と、Jリーグを代表するライバル同士の一戦を経験してきた。
水沼には、忘れられないダービーがある。それがC大阪時代の19年9月、J1第27節に行われた『大阪ダービー』。自身がダメ押しとなる3点目を奪い、会心の勝利を収めた一戦である。
「ダービーの本質を知ったのが、あの大阪ダービー。それまでも横浜ダービーや神奈川ダービーを経験していましたが、ダービーはこんなにも盛り上がるのかと。何より『ガンバだけには負けたくない』と選手たちが意識しています。僕は大阪育ちではないですが、自ずとガンバに負けたくない気持ちになり、盛り上がりが波及していくのを肌で感じましたね」
いまでも目の奥にはヤンマースタジアム長居のスタンドを彩ったピンクと青黒の鮮やかなコントラストが焼き付き、両サポーターが醸し出すダービー独特の熱気と興奮は心に刻まれている。
翻って、横浜FMと川崎Fの『神奈川ダービー』がリーグ戦で初めて行われたのが2000年。その後の4年間、川崎FがJ2だったため、横浜FMと川崎Fのダービーが定着したのは05年以降と“後発”だ。その上、神奈川県には湘南と横浜FCなどのクラブがあり、横浜FMと横浜FCの『横浜ダービー』を除いて、神奈川県内のクラブ同士の一戦はすべて『神奈川ダービー』と同じ名称に集約される。
そこで、近年、J1の覇権を奪い合う横浜FMと川崎Fの一戦の差別化を図ろうと、命名されたのが『BIG神奈川ダービー』。言わずと知れた横浜市出身の水沼も可能性を感じている。
「僕が小さい頃、横浜周辺ではあれば、夢はマリノスの選手でした。でも、今はフロンターレのアカデミーに流れる子どもが増えてきているのも知っています。子どもたちは結局、トップチームが強いクラブに入りたい。その意味ではマリノスの強さを示し、学校や地域のチームで、『やっぱ、マリノス強ぇだろ』と自慢できる試合にしたいですね。何より、同じ地域でいつもリーグ優勝を争うチーム同士になれば、これからもっと大きなモノになっていくだろうし、みんなが意識するようにもなるはずです」
日本を代表するダービーになるためには、一戦一戦を大事に積み重ね、その歴史が品と格を生む。そして、『BIG神奈川ダービー』がより“BIG”に育つには、ピッチ上の選手たちの熱い戦いはもちろん、ダービーならではの雰囲気を作り出す両サポーターの熱量は欠かせない。
文:大林洋平(エル・ゴラッソ横浜FM担当)
写真:徳丸篤史(プレー)、大林洋平
(横浜FM担当 大林洋平)
2023/07/03 11:00