湘南が初優勝を飾ったルヴァンカップ。試合前、曺貴裁監督が強調していたのは「いつもどおり」だった。何か特別なことをするのではなく、周囲の喧噪やいつもとは違う環境の中においても、「ごく普通に過ごす」ことの重要性を説いていた。チャンピオンの歓喜から一夜明けた28日、選手たちに試合までの準備について聞いた。
大野和成はルヴァンカップをとおして調子を上げてきた選手の一人。自身にとっても転機となる大会の決勝とあり、意気込みも人一倍かと思いきや、いたって「普通」に過ごしたようだ。
「前日僕は爆睡ですよ(笑)。前日のパーティで疲れてすぐ寝て、起きたら『あ、もう試合か』という感じで、試合にも普通に入っていきました。それがよかったと思います。
ウォーミングアップでピッチに入ったとき、最初に目に入ったのはマリノスのサポーターでした。旗もたくさん振って『すごいな』と思ったんですけど、振り返ると湘南も負けないくらい多かったんですよ。それを見て『こっちもすげぇ、いけるな』と思って、鳥肌も立ちましたし気持ちも乗りました」
ちなみに大野は、後半の押し込まれる時間も「いつもどおりの『体を張りまくりましょうタイム』に入って、『きました!湘南名物!』と思っていました(笑)」と、焦りどころか楽しみすら感じてプレーしていたという。
一方、「普通」に過ごせなかったのは山根視来。試合前日はあまり眠れないほど緊張していたという。それを解いたのは、監督の言葉と、何より山根自身が持っている仲間を思う気持ちだった。
「曺監督がホテルのミーティングで『優勝したい』じゃなくて『たぶんお前らは優勝するよ』と言ってくれてラクになりました。模造紙にアカデミーの選手やスタッフがコメントを書いてくれて、曺監督は『湘南スタイルで優勝してください』という言葉に感動して、『お前らはそれを植えつけたんだ。そうやって書いてくれた人たちが今日見ている』と。それを聞いて、最初は自分に目を向けていたんですけど、子どもたちがこの舞台で縮こまっている自分を見たら悲しむと思ったし、『なんだよ』と思われてしまう。それで矢印がそっちに向いてラクになって、試合にもうまく入れました」
取材陣から山根の話を聞いた監督は、「いつもどおりやってたけどな」と意外に思いながらも、アカデミーの寄せ書きのエピソードには「狙いどおりだ」としたり顔だった。
(湘南担当 中村僚)
2018/10/28 17:22