17日、移籍元であるメトロポリターノへの復帰が決まっていたジャイロ選手が、母国ブラジルへと帰国しました。当然ながら18日の練習にはその姿はあらず。明るい性格で積極的にコミュニケーションを取っていた存在だっただけに、どこか違和感のある練習風景でした。そんなチームメイトから愛された男の帰国は突然だったそう。送別会もできなかったそうですが、「スパイクやった」と廣瀬選手。「急やったからね。知ったのは4日前くらいやった。全然サイズ合わへんけどね(笑) アイツたぶん28(cm)くらいあるんじゃないかな(笑)」と最後までイジられていました。
今季より助っ人として加入しましたが、栃木ではチャヨンファン選手の加入に伴い登録を外れていました。チームに負傷者が続出する中、紅白戦で抜群のユーティリティー性を見せて(?) GK以外全てのポジションを穴埋めしたのではないでしょうか。しかし、それでも文句一つ言わず居残り練習にまで励み、試合となれば記者席の隣で応援する彼の姿は、一選手として非常に好感が持てました。劇的に千葉を破った際には誰よりも早く「サビア~!!」と叫んでいたくらいですからね。ファンやサポーターのみならず、われわれ取材陣に対しても必ずあいさつしてくれるナイスガイは、サッカーに対する真摯な姿勢をひしひしと感じさせてくれました。そしてそんな男に対する選手たちの印象は、筆者の持ったそれと同じものでした。仲の良かった大和田選手は振り返ります。
「仲が良かったというより、よく絡んでたよね(笑) めっちゃかわいかった。サッカーではよくあることだから、しょうがないけど、寂しいよね。連絡も取りたいけど、アイツ日本語しゃべれないから(苦笑) でも、みんな言うのは『いろんなブラジル人がいる中で、アイツは珍しいブラジル人だった』って。日本人に近いブラジル人というか、日本人に近い感性を持ったブラジル人だったよ。これまでいろんなブラジル人を見てきたし、サビアやパウリーニョにしても、ブラジル人は多少は『自分が、自分が』というどこか我が強いイメージがあるけど、アイツは全くそんな感じがなかった。『自分が、自分が』というより、とにかくチームのためにという印象が強かった。全く人見知りもしない。自分から積極的にいろんな選手に話しかけて、コミュニケーションを取ろうとしていた。それはアイツの才能だと思うし、じゃれるにしてもアイツがみんなに話かけるから、みんながかわいがっていた理由だと思う。俺なんかアイツのおかげで、ポルトガル語を勉強したからね(笑) アイツとコミュニケーションが取りたくて(通訳の)ヒロさんにいろいろ聞いたり、簡単な本まで買って勉強したからね。それでアイツとおちゃらけられたし、楽しかった。アイツも自分からしゃべりにいくために、日本語を勉強していたし、コミュニケーション取れるようにいろいろ心がけていたみたい。だから、けっこうしゃべれてたでしょ?」
この言葉を聞いて思い出したのが、初めて彼を取材したとき。2月、トレードマークのモヒカンに髪型を変えてきたときですね。「少し変えたかった。新しいことをしてみんなをビックリさせたかった」と笑っていましたが、コミュニケーションを取ろうという彼の意欲だったのかも分かりません。そしてどこかイタリア代表のバロテッリのような容姿になると、本家に引けを取らない規格外なプレーをこれまで何度も見せてくれました。プレー面について菊岡選手が補足してくれました。「まだまだ荒削りなところもあるけど、何よりアイツは人間性が良かった。すごい素直だった。日本に来てから良くなった部分もめちゃくちゃあるしね。ブラジルに戻って頑張ってくれればうれしい」。
一躍バロテッリの名を印象づけたのは、サブ組強化のために行われた鹿島とのトレーニングマッチ。練習試合とはいえ、J1屈指の強豪・鹿島を相手に最も手を焼かせたのがジャイロ選手だったのではないでしょうか。何度も「ジャイロ!」と叱責する声が飛んでいたように、守備面でのつたなさと足元の技術は相変わらず課題が残りましたが、強靭な体躯と無尽蔵の運動量を生かしてほぼミスなしのポストワークを披露、好機を量産していました。GKの好守に阻まれ得点こそなりませんでしたが、杉本選手が「今日は良かったね。やりやすかった」と称賛する出来で1アシストとPKを獲得。時折見せた破天荒で型破りなプレーとその風貌からか、記者陣と鹿島の選手に「バロテッリ」と呼ばれたこの試合は、“栃木のバロテッリ”が最も大暴れした瞬間だったように思います。そんな彼に、スペインの優勝で幕を閉じた今回のユーロについて「イタリアは見た? バロテッリは見た?」と聞いたことがあります。すると「ちょっとね(笑)」と照れながら返答。おそらく、質問と答えがかみ合っていませんでしたが、彼自身もバロテッリが好きなようでした(笑)。彼の携帯電話には自分と本家を並べた写真が入っているとも聞きますしね。そして何より、相当サッカーに詳しいですから。
「隠し球。栃木のバロテッリが大暴れ」――なんて、いつしか取材したネタ全てを詰め込んだ、彼の熱すぎる原稿を猛烈に書きたかった筆者です。母国ブラジルでの大爆発を期待しています。
(栃木担当 村本裕太)
2012/07/19 03:43