2012年から2015年にかけてミハイロ・ペトロヴィッチ監督が率いる浦和レッズを徹底取材したサッカー新聞エルゴラッソの番記者が、濃密なレポートでその軌跡を振り返った書籍『浦和レッズ 変革の四年』。かつてペトロヴィッチ監督とともに歩んだサンフレッチェ広島の担当記者は、この一冊を読んで何を思うか。
ペトロヴィッチ監督は「アーティスト」
ペトロヴィッチ監督と過ごした5年間は濃厚だった。『浦和レッズ 変革の四年』を読んでいてさまざまな記憶がよみがえってきたが、やはり最も印象なのは、その頑固さだ。
僕はペトロヴィッチ監督のことを現代の日本にはなかなかいない職人気質の頑固おやじだと思っている。意地っ張りで、最後は自分の感性を信じて決断を下すときがある。ただ、仕事への責任感は人一倍強い。サッカーへの愛情は深く、ピッチ上では常に情熱的で、妥協することはない。ときには執念、怨念のようなものを感じるほどだった。
そんな彼を見ていて、僕は「ペトロヴィッチ監督はアーティストなのだ」という結論に至った。極端に言えば、ペトロヴィッチ監督は自分の作品を作り上げて周囲の人々を魅了し、かつ大賞を取ろうとしているのだ。
ただ、僕はそのことを揶揄するつもりはない。ペトロヴィッチ監督が広島で指揮を執り続けていたとき、僕は違う監督の考え方も知りたくて岡山も取材するようになった。それからペトロヴィッチ監督が去って森保監督が就任し、本当にいろいろな局面でペトロヴィッチ監督とその他の監督を比較している自分がいるが、もちろんペトロヴィッチ監督ほど頑固な監督などいない。というか、やはりその他の監督は課題の修正に多くの時間を費やす。そして、歩みを止めたり軌道修正をしていく。その作業はどうしても対戦相手がありきのため、リアクションになることが多い。そうすると出来上がっていくサッカーの特色が見えづらくなり、普遍的なサッカー、平均的なチームに落ち着いていく。ペトロヴィッチ監督はどんどん最高到達点を高めていくから、もちろん粗があっても、そのサッカーは独創的で、印象的なチームになっている。そんなことができる監督は、今の日本に何人いるのだろうか。
タイトルを取れるかという論点になると、それは運が必要だと書いて濁しておく。ただ、稀代のアーティストが大きな賞には恵まれなかった。そんな話は、この世にたくさん転がっている。
■MCタツのロスタイムTV『ミシャでタイトルを取れるのか!?名物番記者が緊急出演』
6月14日(火)19時30分~
http://live.nicovideo.jp/watch/lv266005487
(広島担当 寺田弘幸)
2016/06/14 12:36