「いやいや、『ペルーの至宝』も、もう来年で30歳ですよ(笑)。比べてみれば、南米にいた5年よりも、レイソルに来てからの5年の方が早かった気がするね。
思い返してみても、南米での日々は、何かと刺激的だった。色んな発見が毎日あったから。
そうだ、強盗事件が身近で起こったことだってあるんだよ。
あれは、柏に入るちょっと前だから、2008年の6月くらいだったかな。あの頃、自分の所属チームだったペルーのシエンシアーノは、取引先だった銀行と、いざこざがあったみたいで、給料を現金で選手に渡していたんだ。
事件があったのは、その6月の給料日のこと。
あの日、午後4時から給料をもらえると聞いたボクは、『その時間に行くと、選手がたくさん並んでいるから待つことになるな』と思って、その年に生まれた娘と一緒に、少しゆっくり行こうとしていたんだ。
娘と一緒にいたら、クラブの秘書から電話がかかってきた。その声は震えていた。『サワ、とにかく急いで来て! お金が盗まれちゃった! みんなで集まって、話をしたいの』って秘書は言ったんだ。そう、クラブが強盗にあってしまったんだよ。
シエンシアーノで相部屋だったアルゼンチン人は、その現場に居合わせていたから、その状況を詳しく聞いた。
みんなで給料をもらうために並んで待っていたら、ドアが『コンコン』ってたたかれた。それから入って来たのが、マスクをかぶった3人組だった。オレのルームメイトは、『何ふざけたことやっているんだ?』って、ちゃかしたそうだ。そうしたら、犯人グループは彼を殴って、『選手には危害を加えたくない。黙っていろ!』とこめかみに銃口を当てた。ルームメイトは『殺されてしまう!』って思い、失禁してしまったと聞いたよ。そうそう、既に給料をもらっていた選手からも犯人は金を巻き上げたそうだ。でも1人だけ、とっさにパンツの中に金を入れてバレなかった選手がいたんだっけ。あ、そいつ、今も現役でやっているよ。
話がそれちゃったね。
秘書やスタッフたちは、犯人に1カ所へ集められた。全員、この体勢をさせられたそうだ(写真)。その場にいた税理士も、会計士も。それで、『お金を全部出せ!』って。その日、クラブにあった約1000万円が、根こそぎいかれた。
でも、犯人はすぐに捕まった。
シエンシアーノがあるクスコは、山に挟まれた街で、街に入る道は限られている。警察はすぐにその道を検問したら、まんまとそれに犯人にひっかかったんだ。犯人http://blogola.jp/?p=3995&preview=trueは3人くらいだったと思う。彼らの所持品を押収した警察は、その中にあった携帯を調べた。そうしたら、発信履歴に、チームメイトの番号が何十回とあった。
もちろん、その選手は疑われたよ。でも、その選手、悪いことをするようなヤツではなかった。彼はクスコ生まれ、シエンシアーノでずっと育った選手でね。もちろん、その選手も『そんなことやっていない』と話していた。でも、さすがに警察も彼のことを調べて、電話会社に承合をしたら、犯人グループと何回も連絡をとっていたことが分かってしまった。彼は証拠を提示されたもんだから自白をし、逮捕されて、有罪になった。それで、確か禁錮刑になった。もちろん、サッカーは辞める羽目になった。
みんな、『アイツが共犯になるわけがないのに』ってビックリしたよ。内通者がいたなんて、驚いたな。
その後、給料は未払いなんだ。犯人は捕まったけど、なかなかお金は返って来なかった。チームメイトは、その後もらったみたいだけどね(笑)。
これが、シエンシアーノ給料強盗、殺人未遂事件だよ。
道ばたで財布が盗まれるのは、よくあることだけど、さすがに強盗はね・・・。いやあ、ボクが経験してきたストーリー、濃いよねー。また、思い出したら話すよ。じゃ!」
(柏担当 田中直希)
2012/11/13 15:32