元日本代表監督であり、かつて千葉も率いたイビチャ・オシム氏の訃報に触れ、町田のランコ・ポポヴィッチ監督も悲しみに暮れている。
ポポヴィッチ監督はオーストリアのシュトルム・グラーツでオシム氏の指導を受けており、監督としても師匠と仰ぐ存在であるため、“オシムチルドレン”の一人。2日、取材に応じたポポヴィッチ監督は大粒の涙を流しながらこう言って哀悼の意を示した。
「この世に肉体は存在しないかもしれないが、オシムさんは私の心の中で生き続ける」
昨年末にはオシム氏を含め、家族ぐるみで付き合いのあるオシムファミリーと会食。「お歳も召されていたので、会うたびに「次は会えるかな…」と毎回思ってきた」中で、それが最後の直接的な交流となった。
ポポヴィッチ監督には、忘れられないエピソードがある。
07年に広島でのコーチ職を終え、セルビアで友人たちとカフェで過ごしていたときのこと。オシム氏との電話の中でセルビアのクラブチームから監督としてのオファーがあることを明かし、「正直オファーを受けようか迷っている」ことを伝えた。そしてオシム氏は開口一番、ポポヴィッチ監督にこう言ったという。
「何をビビっているんだ。君が監督を引き受けない理由がないだろう。ここまで十分にサッカーを
勉強してきたし、サッカーを通じてどういう経験を積んできたかを整理して、その仕事を引き受なさい」
背中を押された言葉の数々は、まるで「心を見透かされているようだった」(ポポヴィッチ監督)。その瞬間から始まったポポヴィッチ“監督”としての物語。監督業のスタートがまた違ったタイミングであれば、ポポヴィッチ監督もここまで日本での指導歴が長くなかったかもしれない。
「オシムさんはサッカーを教えてくれた父でもあり、私の人生の父でもあります。こうやって、彼の死に対して涙を流してくれる多くの人がいるということは、それだけ人に影響を与えられる生き方をされたということですし、彼の人生が素晴らしかったことを物語っていると思います。オシムさんはオンリーワンで特別な方でした。また人としての器の大きさのほうが、サッカーで与えた影響よりも大きいと思っています。オシムさんの存在を伝えていくことが私の役目でもあります」
オシム氏の意思を受け継ぐポポヴィッチ監督はいま、町田でクラブ悲願のJ1昇格にチャレンジしている。
写真:郡司聡
(町田担当 郡司聡)
2022/05/03 11:40