DAZNとパートナーメディアで構成する「DAZN Jリーグ推進委員会」の連動企画。2021シーズンの開幕を告げる特別企画として、「#2021のヒーローになれ」をテーマにJ1各チーム期待の選手にインタビューを行った。弊紙では、鹿島の上田綺世選手に直撃。『BLOGOLA』、そして未掲載部分も含めて25・26日発売の『エル・ゴラッソ』でも記事を展開する。
取材日:2月18日(木) 聞き手:田中 滋
写真:Atsushi Tokumaru
いまの鹿島と以前の鹿島。まだギャップがある
――J1開幕が近づいてきました。宮崎キャンプからここまで、手ごたえはいかがですか?
「チーム全体的にも個人的にも、すごくモチベーションは高まっています。戦術的なところはこれからもっと高めていくと思いますが、去年までのものがベースになることは間違いありません。監督も言っていましたが、開幕戦で勝つことだけを目指しているわけではないので、戦いながら戦術的にも質を高めていけたらいいと思います」
――クラブは今年、創立30周年を迎えます。上田選手としてはどういう思いがありますか?
「僕は小さいころから海外のサッカーを見ることが多かったのですが、同い年の中にはやっぱり鹿島のファンの子もいました。茨城県でサッカーをしていれば、絶対に意識するクラブだと思います。小学生でも中学生でも、茨城県の中でトップまでいったら、絶対にいつかは鹿島アントラーズの下部組織とあたります。ジュニアユースやジュニアでさえもそういう存在なんです。自分の中ではアントラーズは強いイメージ、雲の上の存在という意識がありました。そのクラブで、いまトップチームに在籍させてもらい、自分が好きなポジションであるFWを任され、自分の好きな番号である18番をつけてプレーできていることはすごく幸せなことです。ただ、自分が小さいころに持っていたアントラーズのイメージと、いま自分が表現できているもののギャップを考えたら、もっと体現したいと思います。アントラーズへの憧れを抱いている小学生や中学生がいるのなら、そういう子どもたちに刺激を与えられるシーズンにできたらと思います」
――上田選手は下部組織出身の選手(中学時代に鹿島アントラーズノルテジュニアユースに所属)ながら、ユースに上がれず、一度鹿島を離れざるを得ませんでした。それでも鹿島に戻ってきたことを思うと、やはりここは特別な場所でしょうか。
「自分が生まれた県のチームでもありますし、僕としては、鹿島で活躍するのが一番いいと思っています。親も見にきやすいですし。鹿島って、サッカーをしていない人がその名を聞いても『強いチームだ』と理解していることが多いと思います。それが多分、鹿島の印象というか姿だと思いますし、鹿島の本質だと思います。サッカーに詳しくない人に『鹿島って知ってる?』と聞いたら『サッカーが強いチームでしょ』と答えてもらえる。選手の名前を知らなくても、それが伝わっていれば、鹿島はそれでいいと思います」
国籍の枠を越えるくらいの活躍をしたい
――上田選手は今年23歳を迎えます。今後のサッカー人生において選択肢を増やすためには、大事な時期に差し掛かっているのではないでしょうか。
「日本では若手と言われるかもしれないですが、 海外の基準からすれば、もう若くはありませんし、焦りはあります。僕の大きな野望としては、アジア人とかそういう国籍の枠を越えるくらいの活躍をしたいというものがあります。それを達成するためには、やっぱり見てもらわないといけない。そう考えたらもう若くないと思います」
――見てもらう場として、代表についてはどう考えていますか。
「いろいろな取材でも言っていますが、クラブでの活躍なしに代表はない。それは森保さん(森保一日本代表兼五輪代表監督)が一番僕らに言ってくれています。やっぱり、鹿島で何ができるかだと思います。鹿島で活躍したからこそ代表に入る権利が得られる。自分が選んだ環境で活躍できないことには、新しい環境は与えてもらえません。この鹿島での活躍をさらに伸ばしていって、誰が見ても(代表に相応しい)、というくらいにならないと、その先のステップはないと思います。代表に入りたいとか、五輪に出たいとか言う前に、鹿島で土台作りをしっかりやりたいと思います」
チームは全体的に仕上がっている
――開幕戦の対戦相手は、昨季の第33節で対戦した清水です。その試合で上田選手は2得点を挙げ、特に2点目はファン・アラーノ選手からの見事なスルーパスを受けて決めたものでした。動いたところに、イメージどおりのパスが出てきたと思いますが、今季はああいう形がもっと増えてほしいという期待があるのではないでしょうか?
「そうですね。あのシーンは象徴的だと思います。あれが例えば、(土居)聖真くんが持っていたり、荒木(遼太郎)が持っていたりしたら、僕の動き方、タイミング、体の向き、声の出し方、そのすべてが変わってきます。そういうところを2年目のシーズンだからこそ合わせていけているので、僕の期待も込めてですけど、似たようなシーンは増えていくのではないか思います」
――清水は大型補強でこのオフの話題にもなりました。どういう印象を持っていますか?
「北九州からディサロ(燦シルヴァーノ)選手が入りましたね。大学(法政大)の先輩なので、レレくん(ディサロの愛称)と同時に試合に出られたらいいなと思います。レレくんもJ2ですごい活躍していたので、お互い刺激し合えたらと思います」
――鹿島のキーマンになりそうなのは誰でしょうか?
「みんなだと思います。新加入の選手は、自分を出せるかの勝負になると思いますし、エヴェ(エヴェラウド)をはじめブラジル人選手の到着は遅れましたけど、みんなしっかりトレーニングに取り組んでいます。この人がキーマンと挙げるのは難しいですね。強いて挙げるなら、シラくん(白崎)や竜司くん(和泉)。シラくんは去年ケガが多くてパフォーマンスがなかなか上がらなかったですが、キャンプからずっとやってきて状態がよさそうです。竜司くんもようやくケガが治って、パフォーマンスが上がっています。(関川)郁万も体はキレていますし、全体的に仕上がってると感じます」
父はヒーローそのものだった
――先日、今季のJリーグの開幕キャッチコピーが「#2021のヒーローになれ」と決まりました。おそらく上田選手にとってはお父さんがそういう存在だったと思いますが、あらためてどんな存在でしたか?
「ヒーローそのものだったと思います。僕は父を目指してサッカーを始めましたが、父がそんなにサッカーをしなくなってからは、父に認められたいというか、父が観にきてくれれば満足して帰らせたい、という思いでした。そういう意味では大きい存在でした」
――厳しいお父さんでしたか、それとも優しいお父さんでしたか?
「相当厳しかったと思います。たぶん、優しい父親だったら憧れていませんし、認められたいとも思っていなかった思います」
――厳しく言われることに対して反発することはなかったのですか?
「しなかったですね。何も言われないくらいになりたいと思っていたので。言われたことに反発することは正解ではない、合理的ではないと思っていました。むしろ、いま言われてることに関してできるようになったら、『もう何も言われないんでしょ』という感じでした」
――いまの子どもたちにとって、どんな存在だったらヒーローになれると思いますか?
「誰だってヒーローになれると思います。公園で自主練している子どもに『一緒に蹴ろう』と声をかけた高校生が、その子にとってヒーローになることだってあると思います。ヒーローってなんでもいいのではないでしょうか。憧れの存在、目指したい存在はなんでもいいと思います。
僕の父はプロサッカー選手ではなかったですが、それでも父に認められたいという思いでやってきて、結果プロになれました。誰でもヒーローになれると思います」
選手は幅広く仕事をする必要がある
――コロナの時代になり、選手も見えないプレッシャーの中で日々を暮らしていると思います。ただ、こんな時代だからこそサッカー選手が果たせる役割もあると思います。いま、この時代でプロサッカー選手としてプレーできていることをどう感じていますか?
「サッカー選手に求められる役割、幅が広がったと思います。試合には入場制限が設けられ、観にきても声を出せないなどの規制があります。いろいろな縛りがある中で、それでもサッカーを好きでいてほしい。プロサッカー選手は、サッカー好きの人たちに感動を与えないといけない存在です。そして、その方法が多様になってきていると感じます。プレーを観にきてもらえないのであれば、それ以外のところを見せる時代になってきていますよね。SNSを使って普段の練習の風景を発信したり、リモート企画をやってYouTubeにその動画を載せたりとか、そういうことで(ファン・サポーターと)選手との距離感を保っていく必要があると思います。そういう時代だと思うので、どこのクラブもマーケティングには苦労していると思いますし、選手は幅広く仕事をする必要があると思います」
――今季、上田選手の活躍を期待する声が多く聞かれます。周りの評価をどう思っていますか?
「自分の活躍が周りの評価につながると思っています。自己評価は常に厳しいですけど、そのように評価してもらえることはうれしいです」
――最後に今季の目標は?
「優勝です」
<プロフィール>
上田 綺世(うえだ・あやせ)
1998年8月28日生まれ、22歳。茨城県出身。182cm/76kg。鹿島ノルテJY→鹿島学園高→法政大を経て、19年途中に鹿島へ加入。J1通算39試合出場14得点。日本代表Aマッチ6試合出場3得点。
(鹿島担当 田中滋)
2021/02/24 15:00