ユース時代から“天才”と称された男が人目をはばからず流した涙には、グッとくるものがあった。
14日の天皇杯3回戦・鳥栖戦、延長開始からピッチに立った手塚康平。4枚目の交代枠としてピッチに立った背番号17に多くのサポーターが期待を抱いた。しかし、そこには残酷な結末が待っていた。
96分、試合を決定付ける大きなミスを犯してしまう。ピッチ中央でボールを受けた手塚は痛恨のトラップミス。猛然とプレスを掛けてきたフェルナンド・トーレスにボールを奪われると、何とか伸ばした手も届かず、そのまま決勝点を決められた。「あれはシンプルに自分のミス。自分の思っているところにボールを置けていなかったことで、その後の対応で慌てたというか、あそこにボールを置いてしまった時点でミスなのでどうしようもなかった。自分が一番得意というか、一番やってきたプレーでのミスだったので、それでなおさら悔しかった」。
数日が経過してあの涙の理由を問うと、「もちろん一番は悔しいという気持ち。自分のミスでレイソルを敗退に追い込んでしまったことが大きい。時間が経つにつれて、いまの(あまり試合に絡めていない)自分の状況とかを考えたときにより悔しさが出てきた」と振り返る。
それでも、試合後のサポーターやチームメートの反応に励まされたという。
「試合中はミスを取り返すことに必死でサポーターの反応とかは見えていなかったけど、試合後にいろいろな人から言われたのは、FKのときの声援がすごかったとか、終わってからのサポーターの反応が、自分のことを叩く人のほうが多いと思っていたけど、そうではなくて、ほとんどの人が励ましてくれて、すごく自分に期待をしてくれていることを知った。それにチームメートもその日だけでなく、次の日も自分に声を掛けてくれて、周りの人に支えられていることを実感した」
だからこそ、いま手塚の心の中にあるのはプレーで“恩返し”をすること。
「さすがに次の日や2日後は、いまあまり試合に出られていない中でどこにモチベーションを置けばいいのか難しかったけど、時間が経つにつれ、練習からしっかりやることでチームの助けになることはできるし、そこで腐らずやり続ければまたチャンスはもらえると、いまはもう切り替えられている。ああいうミスをして、自分がこのあとどういう振る舞いをするか。それが自分の次につながると思うので、そういう姿勢を試合だけでなくて、練習から見せられたらと思う」
多くのサポーターが叩くことなく前向きなメッセージを送ったのも、チームメートが責めることなく明るい声をかけたのも、みんな手塚のプレーを認め、その左足に大きな夢を抱いているから。今季、まだ挽回のチャンスは残っている。エレガントな左足で魅せてくれ!
(柏担当 須賀大輔)
2019/08/20 10:52