『挑戦を、この街の伝統に。』という新たなクラブ理念とともにスタートした今季の金沢。上半期で最も話題をさらった企画といえば、6月に行われたパラパラナイトだろう。選手をギャル男に仕立てて作られたポスターや選手紹介は悪ノリの粋を集めたもののように思われるが、そこには計算と確かな思いがあった(ただしノリの要素がなかったとも言いません)。
(第1回はこちら)
始まりはいつも「お問い合わせはこちら」から
4月に行われたクレヨンしんちゃんとのコラボ企画では、選手紹介をしんちゃんが務め、ハーフタイムにはヤサガラスとしんちゃんが共演。また、5月にはタミヤ模型とコラボし、ゲンゾイヤーモデル、ヤサガラスモデルのオリジナルミニ四駆も発売した。さらに、6月にはギャル雑誌「egg」とコラボしたパラパラナイトを開催。
とくにパラパラナイトは「ワンチャン決めるの俺ぴっぴ。背番号10垣田裕暉」「俺のクロスよいちょまる。背番号24長谷川巧」といった選手紹介(動画はこちら)がネット上にアップされると、「20万回くらい再生された」と中山。サッカー界内外から攻めの姿勢をおもしろがるツイートがあふれた。
このパラパラナイトは、ご存知の方も多いかもしれないが昨年実施されたバブリーナイトの続編ともいうべきもので、ジェネレーションシリーズとクラブが称している。昨年のバブリーナイトは早見優の曲を元にしたチャントがあったことから、本人を呼ぼうとなった、ノリ先行の企画。ここでも中山と水橋のタッグが炸裂。「ポスターは『明星』や『平凡』といった昔のアイドル雑誌風にしたいとだけ伝えたら、いい感じに仕上がった。これでなんとなくいけたなと思った」と言う中山。そこから映像、選手紹介、グッズといったいろいろなところに派生し、サポーターも巻き込むムーブメントになった。
この企画が終了したあと、中山に聞こえてきた「来年もやるんでしょ」という声。これが“おもしろくなければTVじゃない”という、往年のフジテレビのようなスピリットを持つ中山の心に火をつけた。「同じことは2度やりたくない」。そう決心した中山が過去のトレンドを調べる中でたどり着いたのが、ギャル文化だった。さらにタレントを呼ぶだけでなく、今度は「egg」とのコラボを構想し、実現させてしまった。
ところで、このようなコラボレーションはどのようなコネクションで成立させていくのか。この疑問に中山はあっさりと、こう答えた。「電話かお問い合わせのメールを送る。いつも聞かれるんです、どのルートなんですかって。でもルートもクソもなくて、ホームページのお問い合わせが一番確実。ミニ四駆もお問い合わせメールから」。なんと、まさかの正面突破だった。「いろいろ調べていたら、『お問い合わせはこちら』って書いてある。だから、そこに『Jリーグのクラブで、こういうことやりたい』って書いたら話は聞いてくれる。そして『過去にこんなことをやりました』っていうと、意外とすんなりといく」と中山は続けた。まさに案ずるより産むが易し、である。
「コントロールできるもの」とは?
さらに、こういった企画で目を引くのがクラブスタッフの“やり切っている感”である。どういうことかというと、パラパラナイトではクラブスタッフが女子高生に扮してギャルメイク。さらには普段はそんなことしないだろうと思われるような重鎮もフェイスペイントを施していた。また、詳しくは第3回で記すが、8月4日の試合ではサマーユニフォーム(BLACK & GOLD)着用に合わせ、スタッフが髪に金色のメッシュを入れてBLACK & GOLDを表現していた。GMの被り物といい、徹底してスタッフも楽しんでいる印象がある。
ただし、これは単なるノリや悪ふざけではなく、計算されたものだ。「サッカーの試合という興行で一番の主役は選手。ただ、自分たちスタッフは試合時に選手をコントロールできないし、また、選手はどんどん入れ替わってしまう。だから、自分たちでコントロールできるもの、うまく使えるものをもっておきたいということ。それがマスコットとスタッフ。コントロールできるものは最大限使って、おもしろいことをやらないと飽きてしまう」。
おもしろいことをやる。オンリーワンでありたい。そういった思いから生み出される企画。その姿勢で毎月攻めてきた金沢が送り出す最新企画が、クラブ初のサマーユニフォームであり、さまざまなグッズ展開。そのコンセプトは「BLACK & GOLD」だ。
~予告~
第3回:挑戦はクリエイター集団とともに(8月15日公開予定)
(金沢担当 村田亘)
2019/08/14 17:00