著者:倉敷 保雄(くらしき・やすお)
発行:7月5日/出版社:ソル・メディア/価格:1,600円(本体価格)/ページ:304P
フットボール実況の第一人者が語る、魅惑のサッカー四方山ばなし
本書はクラッキー(名手)の愛称で親しまれ、独自のスタイルで支持を得るフットボール実況の第一人者・倉敷保雄氏による、『footballista』の連載コラム3年半分をまとめた書籍化第2弾である。著者が11-12シーズンから14-15シーズンの間に綴ってきたサッカー四方山ばなしが満載だ。
それら四方山ばなしの冒頭には必ずと言っていいほど“マクラ”が語られる。“マクラ”とは本題に入るための流れを作ったり、本題の魅力をより引き立たせるための雰囲気作りをする導入部を示す、落語の構成用語だ。小噺で笑わせて聴衆をリラックスさせる、本題に関連する話題で意識をその後の物語に引きつける、伏線を張る、といった役割が“マクラ”にはある。
この“マクラ”がとにかく面白い。蒸留の技術、ボブ・ディラン、トレーディングカード、熱力学の法則などなど、まさかサッカー本を読んでいて60年代の大映映画『釈迦』やSF作家のフィリップ・K・ディックという名前に出くわすとは思ってもみなかった。それらの話題が一見唐突にサッカーとは無関係に語られ始めたと思ったら、シームレスに本題へと移り変わっていくのだからその語り口たるや。さすがは20年以上もフットボール実況の第一線を走ってきた著者である。そして、その軽妙な“マクラ”に導かれた先に待っているのは、確かな経験に裏打ちされた知識と豊かな語り口が織りなす、生き生きとしたサッカーシーン談義だ。当時のリアルタイムを語る各項は、かつて覚えた興奮、熱量を読者に喚起し、時代を越えて愛されるサッカーの魅力を存分に伝えてくれる。
また、『ことの次第』というタイトルからは、ドイツの映画監督ヴィム・ヴェンダースの同名映画や不条理演劇で有名な劇作家サミュエル・ベケットの小説が連想される。“マクラ”で披露した豊かな知識を有する著者のことだ、このタイトルにも何か意図があるのだろうと勘ぐってみるが……一体どんな意味があるのやら。兎にも角にもサッカーファン必読の一冊である。
(BLOGOLA編集部)
2016/11/20 12:00