著者:西部 謙司(にしべ・けんじ)
発行:7月27日/出版社:ソル・メディア/価格:1,500円(本体価格)/ページ:320P
最新戦術トレンドをとおして知る、サッカーの奥深さ
『footballista』にて連載されている『戦術リストランテ』の書籍化第4弾。戦術分析でお馴染みの著者・西部謙司氏が、主に14-15シーズン以降の欧州サッカーシーンに焦点を当て、戦術の変遷と傾向についてまとめている。
本書では、バルセロナをはじめとする欧州CLの常連クラブから、マルセロ・ビエルサ監督が率いた14-15シーズンのマルセイユ、昨季プレミアリーグを制したレスターまで、さまざまなクラブの戦術が取り上げられている。その中で特に刺激的で示唆に富むのは、副題にもなっている“ペップ”ことジョゼップ・グアルディオラ監督が率いたバイエルン・ミュンヘンについての考察だ。
「フォーメーションがない」と言われるほど複雑なバイエルン・ミュンヘンのサッカーを、西部氏は鮮やかに言語化してみせる。バイエルン・ミュンヘンはSBのフィリップ・ラームをボランチに据えたり、本職のCBが一人もいない『ゼロバック』で試合に臨んだりするが、西部氏は“ペップ”がこのような采配を振るう理由を次のように述べる。「ペップが期待しているのは経理の能力を営業で生かせということなのだ」。あのつかみどころのない、流動的なサッカーの特徴を的確に捉えた表現だ。
戦術本と言うと、難解で堅苦しいイメージを持つ人もいるかもしれないが、本書は違う。もちろんある程度の知識や共通認識は必要だが、普段Jリーグしか観ない、欧州サッカーには疎い、という人にもさまざまな“気付き”を与えてくれる。その理由は、徹底して具体的かつ論理的だからだ。その戦術を用いた指揮官の狙いや、実際にピッチ上で繰り広げられた攻防が、フォーメーション図などを用いて分かりやすく解説されている。
取り上げられているクラブに親しみを感じない人も、戦術論やシステム論といったものを忌避している人も、本書をめくっていけば、きっとサッカーの奥深さの一端に触れることができるはずだ。
(BLOGOLA編集部)
2016/10/23 12:08