著者:セルジオ 越後(せるじお・えちご)
発行:6月9日/出版社:ポプラ社/価格:800円(本体価格)/ページ:156P
引き立つ辛口エッセンス。世の中を変え得る“確信犯的暴論”
かつてジョン・レノンは「天国や国、宗教がない世界を想像してごらん」と唄った。71年のことだ。その1年後、ブラジルから日系2世のサッカー選手が来日した。本書の著者、セルジオ越後である。セルジオ氏は本書の中で「補欠のない日本を想像してごらん」と訴える。
ただ本書で語られている、補欠をなくそうという論調は目新しいものではない。サッカー界でもそれなりに浸透しており、一つの高校、大学がレベルごとに複数のチームを作り、複数のカテゴリーで大会に参加することも珍しくない。また、本書では補欠廃止に続いて、マスコミ、企業スポーツ、部活動、最終的には教育改革にまで話題が及ぶが、その多くがサッカーファンなら、どこかで一度は耳にしたことがあるようなものばかりだろう。
しかし、本書が退屈かというと、決してそうではない。ありきたりな論でも、セルジオ氏の辛口エッセンスが加わることで、劇的に生まれ変わるからだ。セルジオ氏は本書の中で、さまざまな例えを使う。補欠制度のナンセンスさを訴えるには、会社、受験、ゴルフなどを例に挙げる。その中には「なるほど」と思えるものもあれば、「それは無理があるだろう」という暴論もある。だが、この暴論があるからこそ、読者は怒り、突っ込みながら、最後まで飽きることなく読み進めることができる。まるで“確信犯的暴論”によって、セルジオ氏の掌の上で転がされているがごとく。
いまの日本で補欠が完全になくなると信じられる人は少数派だろう。しかし、停滞を打破するのはいつも常識にとらわれない発想であり、「そんな荒唐無稽なことできるはずがない」と批判された人が世の中を変えるのだ。かつてのJリーグもそうだったはず。だから、本書を手にとって補欠のない世の中を想像してみてほしい。少なくとも世界から天国や国、宗教をなくすより、日本から補欠をなくすほうが、よほど簡単そうだ。
(BLOGOLA編集部)
2016/08/11 12:00