今季、広島皆実高から北九州に加入したFW渡大生が残している数字だ。高卒ルーキーとしては悪くない。本人はいまだに「どうして俺が選ばれているんですかね?」などと言ってくるのだが、U-19日本代表に初招集されたのは自然な流れだった。
代表でも彼の地位は着実に固まっていった。夏のSBSカップではある記者から「渡はオプションになれそうですか?」と問われた吉田靖監督が「彼はオプションではなく、“主力”の一人と考えています」ときっぱり返していたのが印象的だった。
キャラクター的には“変なヤツ”である。
「この年代は何も考えていないようなやつは多い。しかし何も考えていないことをまったく隠さないのはアイツくらい」と代表チーム関係者から苦笑混じりに評されたように、「分からない」「知らない」と答えるのをためらわないタイプである。代表ではエース格の久保裕也(京都)と相性の良さを見せているが、「アイツは本当にすごいんですよ!!」と語る目の輝きはホンモノ。ほかのFW候補と違って、同ポジションのライバルといった空気はみじんもなく、「久保の良さを引き出してあげたい。アイツが点を取ったら『よし!』という感じ」と己を殺して黒子に徹する……というより、喜んで、そして自然と黒子になっているのが、渡である。
ただ、卑屈な印象は皆無で、夢や野心がないという感じでもない。「J1でやりたい」という気持ちも率直に話してくるし、彼にはもともと一つ大きな目標があるのだ。
渡には、あこがれの“師匠”がいる。少年時代、一緒にボールを蹴り、サッカーを教えてくれた“近所のお兄ちゃん”は、その後各年代の日本代表に選ばれて世界大会にも出場、Jリーガーになった。その背中を追って、同じ広島皆実高へ進んだほど。
その“お兄ちゃん”FC東京の森重真人とJ1で対戦することが、渡にとっての大切な目標なのだ。「今年、練習試合で対戦することができて、ほんとに……。今度は公式戦でやりたい。そのためにも……」。
実のところ、「何も考えていない」わけではあるまい。この大会の、代表でのプレーが将来へつながっていくのだ、という感触は、確かに持っている。
11月3日、U-19日本代表のアジアでの戦いが始まる。その2トップの一角には、渡大生の名前があるだろう。「国際試合とか全然やったことなかったんですけど、なんかすごく外国人のDFってやりやすいんですよね」と語る“変なヤツ”が、チームのキーマンであることは間違いない。
エースを生かし、己も生かす。そんなプレーを期待している。
(EL GOLAZO 川端暁彦)
2012/11/02 19:58