東京Vのロティーナ監督が、11月4日にアウェイで行われる松本戦に向けての囲み取材で自らのサッカー観を語った。
2位の松本と5位の東京V、その勝点差はわずかに『3』。自動昇格争いの大一番であると同時に、この試合は、J2を席巻してきた和式[3-4-2-1]堅守速攻の松本と、本場の先端を行く洋式ポジショナルプレーというスタイルの激突でもある。
まずはロティーナ師に「いいサッカーとは何か?」と直球を投げた。師、答えて曰く「観客の皆さんが楽しむことができて、かつ勝利することができるサッカー」と、実に示唆に富む。「いいプレーをして、いっぱいパスを回しても試合に勝てない。そういうサッカーは好きではありません」という一方で、「勝っても観客の皆さんが楽しむことができないサッカーというのも好きではない」と宣う。
現実家である一方で、その両立を追い求めている理想家でもある。「ではいいプレーとは何か?」と再び問う。師、答えて曰く「ボールをもつことだけではない。前進する。裏をとる。深さを持って攻撃することが重要だ」と。しかし、一拍置いてこう付け加えた。「それでもやはりボールをもつことは重要です。ボールをもっていれば相手チームは点をとることはできないから」。
「ポジショナルプレー」といえば、かつてはバルセロナ、現在はマンチェスターCを率いるジョゼップ・グアルディオラ監督がその範とされており、指揮官もそれを一つのモデルとしている。しかし同時に、この現実家は「われわれがバルサやシティのレベルにたどり着くことはない」と断言するのである。そのレベルに到達できないことが分かっていて、いかにして「いいサッカー」すなわち「観客を楽しませ、かつ勝利するサッカー」を目指すのだろうか? 師はこう答えた。
「攻撃で彼らほどボールをもてないのであれば、守備の部分をうまくやる必要がある。どのようにプレッシャーをかけるのか、リトリートしているときにどういうディフェンスをするのか」
確かにロティーナの名前はスペインで「守備構築の名手」として知られている。続けて曰く。
「攻撃においても守備においても、サッカーで重要なのは『難しいことをする』のではなく、『簡単なことをすごくうまくやる』こと。『基本的なこと』と言われることを、『的確に、うまくやること』。それがすごく重要です」
要するに、理想は掲げつつも、できないことをやろうとするより、できることを的確に(しかもうまく)やること。それがロティーナ哲学の極意と言えそうだ。現在、海外サッカーファンの間では「ポジショナルプレー」と、かつてはドルトムント、現在はリバプールを率いるクロップ監督を範とする「ストーミング」を対比しての議論が盛んだが、これをロティーナ師が「どちらもそんなに大きな違いがあるとは思わない」というのは、そうした師の考えからだろう。
「クロップはいい監督だと思うし、好きですよ。ポゼッションと、速さと深さをもってプレーすることの、いいバランスをもってプレーしている。実際にポジショナルプレーとストーミング、どちらもそんなに大きな違いがあるとは思わない。選手の特徴が見え方に影響しているのだと思う。選手の特徴を生かすというのが一番重要なことです」
松本の反町康治監督が一貫して[3-4-2-1]堅守速攻でやってきたのも、選手の特徴を生かしてきた結果だろう。今節、両指揮官のサッカー哲学がぶつかり合う。その行方に注目したい。
(東京V担当 芥川和久)
2018/11/03 10:24