4日間のオフをとり、5日ぶりに活動を再開した湘南。練習後、グラウンド脇のベンチで3人の取材陣に対して囲み取材に対応した曺貴裁監督は、開口一番、世間を賑わせている日本大アメフト部に言及した。
さまざまなテーマに波及したが、最も強く訴えていたことは自分たちの姿勢のこと。筆者にとっては「僕も自分でそういうサインを出してしまっているときがあるのだろうなと思います。人を殴るところまではいかなくとも、僕に言われてパフォーマンスを発揮できない状態になってしまっていることがあると思います。その逆も然りです」という言葉が響いた。自分の発言や行動が他人にどういう影響を与えているか。それを受け取ったほうはどう考えたのか。筆者で言えば、一つひとつの記事を世に出すことで、誰にどういう影響を与えることになるのか。それをあらためて、考えさせられる話だった。
以下、その一問一答を書き記していく。重要な提言も含まれると考えたため、一部編集を挟みつつも、ほぼコメントをそのまま掲載する。
――今日の練習は新鮮な空気で始まったように見えました。
「チームのことを話そうと思いましたが、それよりもアメフトのああいう事件があって、指導者のあるべき姿勢、(スポーツは)選手がいろいろなことを経験しながら成長していくものとして捉えると、複雑な気持ちがしました。僕もしっかり向き合わなければいけない。
何より、今回顕在化したから問題になっているだけで、ほとんどのところは顕在化していないのではないかと思うんです。そのほうが、問題じゃないかと思います。今回も映像なくそのまま過ぎていく可能性もあったと思いますし。これを機に、教育する人、誰かを指導する立場にある人みんなが襟を正さなければいけないと思います。彼らのことを批判するのは簡単です。ウチのチームに相手を傷つけるようなことをする選手はいないと思いますが、そう思っていること自体、傲慢なことなのかもしれません。それも含めてわれわれは選手をコントロールし、選手はプレーを楽しむ。フェアプレーでスポーツに取り組むことが大事です。あれを日大だけの話に収めるのではなく、われわれに置き換えて考えなければいけない。あらためて、そういう気持ちになりました」
――練習では「選手に感謝している」というような言葉も聞こえました。
「人の感情はコントロールできないので、もしかしたらウチの選手がそういうことをしてしまうかもしれません。もちろんしないように話はしていますが、それも分からない。いまのところそういうプレーがないので、みんなの姿勢にコーチとして監督として感謝しています。相手を傷つけるようなプレーをよしと思っている選手もいないと思います。でも、これから起こる可能性もゼロではないし、過去に大なり小なりあったかもしれない。『選手としても襟を正していこう』と話しました」
――選手の理性は「やってはいけない」と分かっていても、指導者からの指令でやってしまったという話です。
「物事の本質として『つぶせ』と言ったか言っていないかはどちらでもいいんですよ。実際に起こってしまったのだから、言っていなかったとしても、選手がやったとしたら指導者の問題です。言わないことがメッセージになることもあるし、『頑張れ』と言われてムカつく選手もいるかもしれないし、『一発かましてこい』と言われてモチベーションが上がってフェアにかますやつもいます。
日本のアマチュアスポーツのコーチにはボランティアコーチも多くいらっしゃるかと思いますが、全員が自分のこととして考えないといけません。絶対に。一般の会社においても絶対にこういうことはあります。『これだけ大きな出来事になってよかった』と思えるようにするには、各自が当事者意識をもって聞かなければいけない。指導者の立場になったのなら、誰にでもコントロールできない事象が起こります。それは押さえつけてコントロールできるわけでもないし、放牧し続けたら選手が判断し始めるのかと言えば、それも違う。それをちゃんと認識しないといけません。指導者が謙虚でなければいけないし、指導者が一番自分のことを反省しないといけません。そういう姿勢を見せないと、下にいるものはついてきません。
僕も自分でそういうサインを出してしまっているときがあるのだろうなと思います。人を殴るところまではいかなくとも、僕に言われてパフォーマンスを発揮できない状態になってしまっていることがあると思います。その逆も然りです。指導者の言葉は大きいのだなと、あらためて思いました。誰が喋るか、というか。例えば僕が選手の家族だったとして、選手に『いっちょやってこい』と言っても、ああいうプレーはしないでしょう。何を言ったかは重要ではありません。普段どんな関係でいて、どういう指導をしているかが出るんです」
(湘南担当 中村僚)
2018/05/25 07:00