われわれライターは、情報を文字にして生計を立てる職業だ。それを正確に伝えるために、原稿に使う単語は一つひとつ丁寧に吟味して選んでいく。私は、それは文章を書く上での義務だと思っている。
そんなわれわれ以上に、慎重に言葉を選んで話をしてくれる選手が湘南にいる。石川俊輝だ。彼に質問をすると、必ず一拍以上置いかれてからとても分かりやすい返答が返ってくる。その一拍の間に、メディアに公開してもいい情報、それを正確に伝えるための言葉や表現を整理しているようなのだ。石川の言葉へのこだわりを聞くと、文章で収入を得ている私たちの身も引き締まる思いになす。
「間違ったことを伝えたくないというか。もちろん隠さないといけないこともありますけど、聞いた側、見た側が誤解しないようにすることは意識しないと『なぜ?』と疑問を持たれてしまうので、言葉はより慎重に選ぶようにしているつもりです。言い過ぎると監督に怒られるので(笑)」
「選手同士で話すときも同じですね。ただ、考え過ぎて本心を伝え切れないときもあります。怒っていい場面もあると思うんですけど、そこで気を使ってしまったり、どう言っていいのか分からないこともあります。山根や岡本はスパッと言いたいこと言うんですけど(笑)」
「湘南でのプレーも長くなりましたし、周りに言っていい立場だと思うんですけど、あまり言い過ぎると若手は萎縮しすぎてしまいますし、自分自身言い慣れてない。でも、そんな僕が言うからこそ響くこともある。誰に何をどんなふうに伝えればいいのか。それがいま新しく取り組んでいるところですね」
お礼の手紙やメールを送るときには、文面を奥さんに見せるときもあるという。しかし、あまりにも考え過ぎて「自分で調べて」と突き返されるようだ。
それほど深く物事を考える石川は、ピッチでは縦横無尽に走り回り、“背中で語る”タイプのプレーヤーだ。言葉にせずとも、彼から感じるメッセージは大いにある。リーグ戦で連敗中の湘南を、彼がどのように引っ張っていくのか、注目したい。
(湘南担当 中村僚)
2018/05/12 12:26