著者:畑 喜美夫(はた・きみお)
発行:7月27日/出版社:ザメディアジョン/価格:1,200円(本体価格)/ページ:212P
サッカー指導に枠に留まらない、人間育成の入門書
“ボトムアップ理論”という考え方をご存じだろうか?
上からの指示で下の者を動かす“トップダウン”と対比して用いられ、下からの意見や情報を吸い上げる考え方のことである。サッカーの指導法でいうなら、監督やコーチが指示を出して選手を動かすのが“トップダウン”型、選手の自主性、主体性を引き出し、皆で考えながらサッカーを創造するよう促すのが“ボトムアップ”型の指導法ということになる。互いに意見を出し合いながら物事を進め、目標設定、チーム運営から先発メンバーの決定に至るまでを選手が行い、監督は“ファシリテーター”という中立的な立場で意見に耳を傾け、議論をまとめながら、皆が納得できる方向に導く黒子役に徹する。いわば、選手が主役の指導法である。
本書はそのボトムアップ理論を取り入れた指導で広島観音高を全国屈指のサッカー強豪校に育て上げ、現在は安芸南高を指導している畑喜美夫氏による選手育成の入門書だ。
本書の最大の特徴はタイトルにもあるように“まんが”であること。指導本、育成本などは文章と図解で構成されるのが一般的だが、本書は途中で挟まれる数ページの解説とあとがき以外のすべてのページがまんがで構成されている。しかし、まんがだからと侮ることなかれ。キャッチーな絵とストーリーに補完された本書の理論解説の分かり易さは特筆すべきものだ。子供のころ、歴史上の偉人の伝記をまんがで読んだがあるだろうか。イラストや物語に紐付けされた歴史の知識というのは、史実やできごとを羅列した社会の教科書で得た知識よりも、遥かにスムーズに頭に入ってくるものだ。
本書の主人公はサッカーのことは何も知らない女子高校生。弟が通い始めたサッカークラブの練習風景に疑問を感じた彼女が、周囲の助けを借りながらボトムアップ理論でチームの改革を行っていく過程が描かれている。物語序盤ではボトムアップ理論についての知識を持たない主人公とチームだが、彼らが成長していく姿をとおして、読者もゼロから理解を深めることができる。そして、ここで大事なのが、ボトムアップ理論を通じて、チームを強くするだけでなく、選手の自主性、主体性を伸ばし、“人間を育てる”ことができると描かれている点だ。
つまり本書はサッカーの選手育成入門書としてだけでなく、人間育成の入門書という側面も持ち合わせているのである。サッカーの指導者のみならず、そのほかのスポーツの指導者から教育関係者、部下を持つ会社員に至るまで、多種多様な人にとってのガイドブックとなる一冊である。
(BLOGOLA編集部)
2016/10/16 12:00