著者:太田 宏介(おおた・こうすけ)
発行:6月11日/出版社:ぴあ/価格:1,500円(本体価格)/ページ:208P
いまだ途上。太田宏介の道は現在進行形で先へと伸び続ける
タイトルの『道』とはもちろん著者・太田宏介が歩んできたサッカー選手としての道であり、“キャリア”のことだ。第1章では幼少期からプロになるまでの道のりが、第2章ではプロ入り後、海外移籍するまでのJリーグでの選手生活が描かれている。ここでの太田は良質な出会いを繰り返し、着実にそのキャリアを進めていく。
しかし第3章、ここで道はふりだしに戻る。それまでの流れから考えれば、本来この章では太田のキャリアの転機とも言うべき海外移籍が語られるのが自然だ。にもかかわらず、著者はここで幼少期からのエピソードを再度語り直す。これには少々面食らってしまう。だが、しばらく読み進めると、得心がいく。なぜならここで語られるのは第1章、第2章で歩んできた道と寄り添うように伸びた別の道だからだ。それは“サッカー選手として”という括りが外された彼のパーソナルな道、“太田家の末っ子”として歩んできた道だ。
第3章のタイトルは『原点』。家族との関わりをとおして太田宏介という一個人が形成されていく過程が克明に描かれる。両親の離婚、母への愛情、年の離れた兄との親交。濃密なエピソードの数々は、人見知りで柔和な少年が、いかにして“鬼ポジティブ”で少しチャラい青年へと成長していったかを赤裸々に物語る。そして、ここに至ってようやく、キャリアとしての道と太田家の末っ子としての道は読者の中で合流を果たす。言い換えるなら、われわれ他者が見る一面と本人しか知らない一面が重なり合い、自伝と呼ぶにふさわしい確かな太田宏介像が結ばれる。
そして道は続く。第4章以降では「30歳を目前にしての海外初挑戦」、それも欧州トップレベルへの挑戦という、いまだかつて日本人選手が成功を為しえていない領域へと続く、また新たな道も登場する。
去る8月25日には、ロシアW杯アジア最終予選に臨む日本代表メンバーとして、太田は1年1カ月ぶりに代表復帰を果たした。現在進行形で伸びている彼の道がどこへ続いているのか、どこまで伸びるのか、われわれには知る由もないが、その足跡が力強く確かな輪郭を描いているのは間違いない。
(BLOGOLA編集部)
2016/09/01 12:00