
著者:豊福 晋(とよふく・しん)
発行:7月4日/出版社:洋泉社/価格:1,500円(本体価格)/ページ:256P
「バルサの先の人生」とスペインという国のリアルな姿
「バルサの先にも人生は続く」
FCバルセロナ下部組織の選手寮『マシア』で長きにわたり寮長を務めるカルラス・フォルゲーラ氏の言葉だ。
『カンプノウの灯火』は、メッシよりも少し早く「バルサの先の人生」を歩むことになった、彼と同期の少年たちの、その後の知られざる物語を描いた一冊である。
15年前に取られた一枚の写真をきっかけに、著者の冒険は始まる。集合写真の前段にいる、とりわけ華奢な少年は、16年の1月11日には通算5度目のFIFAバロンドールを獲得した。では、彼と並んで写真に収まっている少年たちは、いまどこで何をしているのか。
00-01シーズンにバルサのインファンテルB(13、14歳)でメッシとともにプレーし、1シーズンで40得点を挙げて「メッシを超える」とも言われた少年は、いまはスペイン南東部の小さな町に住んでいる。「ごく控えめに言って、あのころの俺は誰にも止められなかった」と真剣な表情で話すセネガル出身の男のかたわらには、ボクシンググローブが置かれていた。
警察官、肉屋、動物飼育士、ビール会社の営業マン、害虫駆除員、給食世話係――。メッシになれなかった少年たちは、いまそれぞれの人生を歩んでいる。
著者はそんな彼らの「バルサの先の人生」を追いかけながら、同時にスペインという国のリアルな姿も描き出している。不況、移民、バルセロナとテロ、カタルーニャの独立是非――。FCバルセロナという夢舞台、その裏側には超競争社会があるわけだが、その舞台から降りたあとの人生も一筋縄ではいかない。「サッカーと人生は通じる部分がある」。少年時代にブスケツともプレーしていたという男は、月給約4万5千円の仕事に就いている現状について、努めて明るく語りながら、そう言った。
メッシとボールを蹴った少年たちは、カンプノウで歓声を浴びることを夢見た、当時のまばゆい思い出を大切に胸にしまいつつ、スペインの普通の日常生活を送っている。
(BLOGOLA編集部)
2016/08/26 12:00